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Run away! 2

時人と雪

作者: 貴幸

「雪ちゃん本持ってきたよ〜」


数十巻持っているとさすがに手がしびれてくる。

雪ちゃんはものすごい形相で僕をみてきた。


「え、どうしたの?」


「時人がこんなに持てるなんて…」


「そこ!?」


倒れないように地面に置いたが結局崩れた。


「あと十冊くらいあるから持ってくるね〜」


ドアを閉めた。



「めっちゃ何もおこらねぇ雰囲気しかねえ…」


今日は本読みたいだろうし、良いか。




「雪ちゃん制服シワになるし服着替えなよ。」


「うん…」


既に漫画に没頭している。


「おーい。」


「あと数ページ…」


と言いながらも半分くらいまだ読み終わってない。


「脱がせるよ。」


「…」


すぐにそうゆうことを言う、という目で見られた。

制服がシワになるのは嫌でしょ?


「僕の部屋のクローゼットに入ってるから好きなのとって着替えてきて。」


「どれでも良いの?」


「うん。って言っても地味なのしかないかもしれないけど。」


「うん。私時人の部屋勝手に入って良いの?」


「雪ちゃんなら良いよ。」


足早に去ってしまった。

鍵かかる場所の方が安心したかなぁ。


崩れた漫画の数をなんとなく数えながら綺麗に並べ始める。


「冊数の多い漫画で良かった。」


そういえば彼女の読んだ本は数冊しかなかったっけ。


「…遅い。」


まさか部屋にあるものをみられているんじゃないだろうか。

変なものがないか不安だ。


「あっ…」


こっそり買った雪ちゃんの写真は棚にあるけどばれないだろうか…


「いや、女子の着替えが時間かかるのかもしれないし…」


巻数の多い漫画を綺麗に並べ替え終わってしまった。


「見に……いや、でも着替え途中だったらまずいし…」



「倒れてたら困る。」


少し後ろめたい気持ちもありながら自分の部屋にむかった。


コンコン、とノックをする。


「雪ちゃん?」


「あっ!」


ドアを開けた。

良かった着替え終わってる。


「人様の部屋を物色するなんてお主も悪ですね。」


「時人の部屋、あんまり来ないから気になって。」


脱ぎ捨てられた制服に少し目がいく。

純粋になりたい。


「なんか目ぼしい物はあった?」


「机の上に私の写真が立てかけられてるくらいかな。」


「えっ!?」


冷や汗がたれる。

しまった無意識にたてかけてたのか!?


「嘘なんですけど。」


「な、なんだ…」


「そんなこと時人はしないでしょ。」


…雪ちゃんが見ている僕は、そんなに雪ちゃんを見ていないのかな。


「する。」


「するから…、普通に。」


机の方を見ている雪ちゃんの表情はわからない。


「男子ってそんなもんなの?」


「わからないけど…卒業アルバムは好きな子を眺める為にとっておいたりするんじゃない?」


「変なの…卒業アルバムはとっておくものじゃない。」


変に距離があるから僕も雪ちゃんの隣についた。

雪ちゃんは少し、口を尖らせた表情をしていた。


「え、どうしたの?」


「同級生なら私もそんなこと出来たのになー。」


僕だって同じだ。

そんなこと言えない。

話をずらしたい気分になった。


「雪ちゃん、今日のご飯カップ麺で良いかな?」


「私が作る。」


「え?」


「少しくらい冷蔵庫に入ってるでしょ?」


「う、うん、いいの?」


これは雪ちゃんの手作りの料理が食べれるチャンスなのでは。


「本読ませてくれるお礼。」







雪ちゃんはそこらへんにあるエプロンを手に取ると台所にたった。


後ろ姿がなんだかお母さんみたいだ。

こうしてるとふっ…夫婦、みたいだ。


「何か手伝う事とか、ある?」


「ない。」


つい、雪ちゃんをじっと見てしまう。


「な、何…?」


はずかしそうにそっぽを向いた。


「奥さんみたい。」


「は!?」


みるみるうちに雪ちゃんの顔が赤くなり、野菜を切るスピードがはやくなった。

可愛い。


「見るだけならあっちにいっててよ〜…」


「えへへ、誰かに何か作ってもらう事ってあまりないから。」


台所を自分以外が使うのはいつ以来かわからない。


「言ってくれればいつでも作りに来るんですけど…」


「…」


「…」


「だっ、黙らないでよもやし!」


「もやしじゃない!」



予想外の言葉に出す言葉を無くす。

それはどう捉えたらいいんだろう。

そう思うと恥ずかしくなってきた。


「だから、休みの日とかくらいなら別に良いよって…」


もう、結婚してしまいたい。


「ありがとう、雪ちゃん。」


結婚しよう、って言うかわりに後ろから抱きしめた。

キュッと雪ちゃんの身体が引き締まる。


「と、時人さん、あのっ…」


「手元みないとケガするよ。」


「いや、違くて…」


反応一つ一つが可愛らしくてもっといじめたくなる。


離れて、って言わない限り離れない事にしよう。


「料理しづらい。」


「甘えたいんです…」


割といつも甘えてる。

申し訳ない。

雪ちゃんの匂いが好き。

全部好き。

思った事をたまに言わない時は、嫌い。


…嘘、好き。


つかんでる指に力が入る。

ビクッと身体が反応しているのが可愛い。

でも、何も言わないんだね。


「心臓バクバク言ってる。」


「本当だ。」


これくらい自分の音も聞こえてるんだろうか。


「時人は冷静なのにな…悔しい…」


「冷静なわけないでしょー…」


胸を背中に押し当てる。

いつもの五倍ははやい心臓。


「本当だ。」


「ご飯できたねー。」


「うん、食べよう。」


急に自分のした事が恥ずかしくなってきた。

何をやってるんだ、僕は。

つかんでいた手を即座に離す。


「時人」


「は、はいっ。」


「私も…」


そういって手を広げる。


「私もってなに…」


わからないまま後ろをむかされると、後ろから抱きつかれた。


「ぐぁっ…!」


めちゃくちゃ胸が当たってる。

気にならないのかな、この人。


「雪ちゃん、ご飯冷めるって、ねっ?あのっ、あの…」


ドキドキして頭が回らない。

本当に自分は押しに弱い。


「ご飯食べよ。」


パッと離れたかと思うとエプロンを外しさっさと椅子に座り始めた。

余韻とかないのか…余韻とか…





「いただきます。」


二人で食べるご飯はとても美味しい。


「雪ちゃんは良いお嫁さんになるね〜」


「そう?でももらってくれる人がいるかなぁ。」


「いる。」


「…」


自分でわかっておきながら言っておいて恥ずかしがるのか…

僕以外の誰かが雪ちゃんと結婚したときは泣いて自殺しようかな…


「恋人でもないくせに…」


「それは言わないで。」







ご飯を食べ終わると定位置に戻り漫画をまた読み始めた。

その間僕は何もする事がない。

漫画も読み飽きてしまったものだ。

読んでいるのを邪魔するのはアレだし、寝ることにした。







「ん…」


やばい、ガチ寝してしまった。


なんか重い、と思ったら雪ちゃんがよしかかってきてた。


「えっ」


僕の慌てようを無視して黙々と読み続けている。


「雪ちゃん…あの…」


「甘えた。」


足の間に体育座りみたいな感じですっぽりと入っている。

このままずっとこの体制でいるつもりなのだろうか。


「あったけぇ…」


つい本音が出る。


「私もあったかい。」


頭を撫でると少し照れながらも嬉しそうな表情をした。


「眠たくなってきた…」


「寝る?」


「読む…」


と言いながら寝た。


この状況、どうすれば良いんだろう。

寝るなら僕の部屋のベッド使っていいよって言おうとしたのに…

もったら起きそうだしなぁ。


「このままでいいか…」


ふにゃりと崩れると太ももに頭を乗せ完全に寝る体制に入った。

太ももに手を置かれるとなんだかこちょばしい。


「雪ちゃん、ベッドで寝なよ。」


「時人と寝る…」


「っ…!?」


これじゃあ僕は寝れない。

寝なくてもいいけど。


「好きだ。」


今日一番言いたかった事を言う。


「大好きだ。」


少し肩がピクッと動いた気がする。

まずい、起きてたのかな。


「…大好き。」


雪ちゃんはそう言って寝息をたてはじめた。




「幸せだなぁ。」




数冊読み終えてない本を綺麗に並べて僕はまた寝る事にした。











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