悔恨
汽車は、けたたましく汽笛を鳴らしながらも、なんの躊躇もなく通り過ぎていった。
私のいるところからは、大五郎の姿を見ることはできなかった。私は、奇跡が起きていることだけを願いながら走った。
大五郎がいたところには、レールと枕木の間に引っかかったリードだけが、途中で引きちぎれて残されていた。
大五郎はそこから二十メートルほど先にいた。首輪をつけたまま、口から長い舌を出しぴくりとも動かない大五郎には、胴体の半分がなくなっていた。後足の部分は、少し先の線路脇の茂みに、これもまた何か作り物のように完璧な形で横たわっていた。
近くに来た弟が、沸き立つような夏の匂いの中で狂ったように泣いていた。不快に響き渡るアブラゼミの鳴き声までもが、私を責めているように聞こえた。
私は無言で家の方へ歩き出した。途中で引っかかっているリードを力任せに引き外し、手に提げたまま家に戻った。
家に着くと、持ち帰ったリードを大五郎の小屋に投げつけ、物置の隅にあったビニールシートを抱え、再び黙って歩き出した。
現場に戻ると、二つになった大五郎のそばで弟はまだ泣いていた。私はビニールシートを広げ、強い口調で弟を促し、まだ十分に温かみの残る二つの大五郎を載せる作業を手伝わせた。
泣きじゃくる弟と二人で重いシートを抱えた。そして、線路の敷石に足を取られながらゆっくり家に向かった。シートの上の大五郎の目は、我が身に突如訪れた災難の壮絶さを語るように開かれたままである。
その目が私を見つめているように見え、目を背けたはずみに思わずよろめいてしまった。次の瞬間、右足の膝の上に生ぬるい感触が流れた。白い体操服のズボンが紅く染められている。シートが傾き、大五郎の血が流れこぼれたのである。
私は、糸が切れたように泣き出した。恐怖やら後悔やらが入りまじった感情が一挙に吹き出し、止まらない涙になった。
泣き喚くふたりの兄弟は、なんとか家に着くと、庭の隅に穴を掘った。ぬれたズボンのまま、できる限り深い穴を掘った。そして、首輪を外し、二つの遺体を葬った。
土を盛りながら、このことは一生忘れられないし、また、忘れてはならないと考えていた。
つづく