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*注釈について

この作品は世界設定をより詳しく説明するために注釈を使っています。しかし大事な世界設定は作中で書かれているので、物語を解釈するためには必要ありません。注釈はより深くこの作品の世界について知りたい方たちのためにあります。基本的に注釈は前書きに書きます。



[1]SF育成学校:SFはSpecial Forceの略であり、主に工作員や刺客を意味する。世界各地に存在するSF育成学校では色んな差が存在するが、全体的には激しいトレーニングが秘密の場所で行われることが多い。集められる子どもたちの年も様々で幼児から育てる学校もあれば、大人を訓練する機関もある。

[2]ユニファイド:世界共通語。日本語をシンプルにし、英語の科学的用語を取り入れた言葉である。地球ではこの言葉が母国語として教えられている。

[3]ダブルアイ学:この学問の正式名称はI&I学、すなわちInformation and Inteligence学であるが、生徒の間では短くダブルアイと呼ばれている。この学問の狙いは情報収集と分析をさらに効率よく行うことである。

[4]アトランティス:島のように巨大な船。地球では人口が爆発的に増えたため、人間が住める場所を確保するために作られる船である。


→専門用語リスト: http://marianflayer.blogspot.de/2012/12/blog-post_21.html

→専門用語グロサリー: http://marianflayer.blogspot.de/2012/12/blog-post_23.html

 ウトの冷たい指が外れたボタンの間から侵入し、僕の胸を撫でた。ヒヤリとするその細長い蒼白な指は左の乳首を触れ、同時に僕の心臓を高鳴らせる。彼の顔が視野いっぱいに近づき、僕たちの唇が重なった。低血圧だと言っているわりにはウトのリップスは暖かく、僕の口に入ってきた舌は柔らかく、そして優しく僕のと繋がった。

 僕を抱きしめ、ウトは自分の顔を僕の裸の胸に置いた。彼の体重が胸に伸し掛かり、僕は息がつまりそうになり、喘いだ。苦しく、顔が赤くなる。でも嬉しかった。ウトの耳が僕の心臓が鼓動する音を聞いている――そう思うと、胸が締め付けられてなくても呼吸をすることなんてできない。

 しばらくウトはそのまま動かず僕の上にいた。僕より少し小さい彼が僕の心臓の上に胸を置くと、自然と爪先が合わさる。膝を動かし、ウトの腿を小突いた。するとウトは顔を少し上げて微笑みながら僕を見た。

 早く――早くこのドキドキを止めさせてくれ、なんて言えなくなってしまった。それほどウトは幸せそうで、嬉しそうな顔をしていた。ここで急いでしまったら、全てが壊れてしまう。そう思った。

 だから僕は首を転がし、広げた掌を見せた。ウトは僕の手を握り「もう少し」と言いながらまた頬を僕の胸に押しつけた。彼の頬は髭の跡なんかなく、子供の肌のようにしなやかだった。

 エアコンが動く音を聞きながら僕は動かず、ただひたすらウトの右手を握りながら待った。これまでウトにこれほど近づいたことなんてなかったが、まだウトのTシャツが僕と彼の肌の間にあった。僕のワイシャツは千切るように脱がしたくせに、自分の服は脱ごうとしない、悔しかったがウトらしいと思った。でも僕は見たかった。彼の細くて妖精のような身体を。

 僕の物欲しそうな視線を感じたのか、ウトは顔を上げ、僕の額にキスした。そして上半身を上げ、両手を交差させTシャツを捲り上げ、脱ぎ捨てた。彼の裸は見たことはあった。だけど薄暗い僕たちの部屋で僕の胸に馬乗りになったウトの上半身はまた違った。シャワーでは彼の裸は恥ずかしくて見ていられなかったが、今は好きなだけ眺めていられる。それでも顔は鼻血が出そうなほど赤くなるけど。

 彼の身体は色は薄く、まるでガラス細工のようだった。乳首でさえ白っぽい肌色で、ウトが首から下げてる黒い十字架は初雪の地面に落ちたカラスの羽のように鮮やかだった。

「ウト」僕が言うと、彼は目を閉じ、僕の名前を言う。「イノ」

 倒れるようにウトは上半身を倒し、僕を抱きしめた。彼の胸がさっきより強く、激しく伸し掛かり、僕は本当にもう息なんて吸い込めないのではないかと思った。そしてもう一度僕たちは口づけをする――


 ――ウトを殺したい。夢が消散し、現実が結集し始め、目覚ましのけたたましい音を聞いた瞬間にその願望を思い出した。それと同時に今までの光景が夢だったことに気づく。目を開き、ベッドの縁に座る。目覚ましが鳴り続けるなか、僕は向かい側のベッドに布団をかけずに寝ているウトの顔を睨めつけた。

 立ち上がって彼の首を締めれば一瞬で終わるのだ。僕が彼に殺意を抱いていることなんてウトは夢にも思っていないだろう。だからウトに忍び寄って、彼の腹に乗り、首を締め付ければ――

「イノ、目覚ましを消してくれよ」ウトがうつ伏せに寝返りを打ち、枕を耳に押し付けながら寝ぼけた声で言った。低血圧の彼は緊急事態でないかぎり起きるのに何分もかかる。

 僕はため息をつき目覚ましを消した。再びウトの寝息だけが聞こえる静けさが訪れ、僕は彼の裸の背中に見とれながら、その上にまたがり彼を殺すことを考えた。


 二週間前、僕は大勢の生徒と一緒に月面に作られたクララ・フォン・ヴォルケンSF育成学校[1]に入学をした。三ヶ月前にあった受験は監視カメラが設置された小部屋で行われ、他の生徒たちから完全に離脱されていたので、入学式の時、始めてこれから数年を過ごすであろうクラスメイトたちの顔を知った。生徒たちの肌の色はさまざまで、僕のように少し日焼けしたやつもいれば、ウトのように青白い子供もいた。一番驚いたのは他の子供たちが喋るユニファイド[2]のアクセントだった。出身地によってイントネーションが変わるのは知っていたが、慣れるまでは言っている意味が全くわからない喋り方をする同級生も少なくなかった。

 こんな場所でやっているいけるのだろうか、と僕は不安ではち切れそうになったことを僕は覚えている。前の学校では学年トップの成績を収め、特にダブルアイ学[3]では誰も寄せ付けない成績を誇っていたが、このヴォルケン校ではそんなことは珍しくなく、どの生徒も秀才に思えた。

 入学式はヴォルケン校の中心に建てられた大聖堂で行われ、そこで僕は校長のスピーチを聞いている間に気持ち悪くなった。両手を腹に押し付け、僕は下を向いた。何とか吐かないように努力した。そこで僕はウトに出会った。

 彼は僕の真後ろに座っていて、小声で「大丈夫かい?」と訪ねてきた。誰かに心配されるのは嬉しかったが、同時に僕は弱みを見せたくなかったので、強がって「問題ない」と答えた。するとウトは微笑して「校長のスピーチが終わったらトイレへ連れてってやる」と言った。

「その必要はない」と言いたかったが、突然胃が飛び上がり、嘔吐物が食道を込み上げてきた。僕は目を見開いて口を押さえ、何とか大聖堂で吐くのは避けたが、ウトの申し出に逆らえる余裕はなくなっていた。校長が演説台から下りた後、僕はウトに付き添われて大聖堂を出た。

 トイレでは涙がでるほど嘔吐した。あまり食べていないのに、ウトに背中を擦られると、さらに何かが込み上がってきて、喉から飛び出した。ウトは冷やかしの言葉は何も言わず、僕が吐いている間中ずっと手を握っていてくれた。悔しくて、吐き終わった後も涙が止まらなかった。

「顔を洗えよ。目が真っ赤だぜ」

 ウトはそう言ったが、笑いはしなかった。トイレの個室を出て、自分の顔を鏡に映してみると、確かに酷い顔だった。いつもは漆黒に近い紺色の色彩が真っ赤に充血していて、涙の後が目の周りにくっくりとついていた。冷たい水で顔を洗っても完全には消えなかった。

「心配するな。誰でもこんなところに連れてこられたら吐くぜ」

「君は吐いていない」僕は鼻をかみながら言った。

「いや、吐いた。シャトルのトイレで口に指を突っ込んで食べたものを全部出しちまった。俺だけじゃないぜ。他のやつらも似たようなことをしていた」

 ウトの言葉がどれだけ本当だったのかはわからないが、その時は少し楽になったような気がした。僕はもう一度顔を洗い、五分ほど待ってからまた大聖堂へと戻った。

 今度はウトは僕の後ろではなく、僕の隣に座った。


 洗面所で新しく生えた薄い髭を剃っているとふらふらとウトが入ってきた。

 ウトは半分目を閉じたまま酔っぱらいのような足取りで僕に近づいたかと思うと、頭を僕の肩に押し付けて、僕に寄りかかった。彼の胸が僕のパジャマを通して僕の背中を触れていると思うと、思わず顔が赤くなり、気をつけないと間違えてカミソリで肌を切ってしまいそうになった。

「毎朝やめてくれよ」僕が言うと、ウトは欠伸をして寝間着のズボンを不精に片足で脱ぎ始めた。急いで頬と顎を水で洗い、僕は洗面所を出た。ウトが僕の気持ちを知っているのかはわからなかったが、彼は僕の前ではいつも無防備に振舞った。このように僕の前で服を着替えることに彼は抵抗を感じず、それが僕には時々鬱陶しくも思えた。

 ウトがシャワーを浴びる音を聞きながら僕はヴォルケン校の制服を着始めた。


 ウトは南極に浮かぶアトランティス[4]出身だった。極寒の土地で生まれた彼の肌は雪のように白く、髪はカールがかかったダークブロンドだった。その二つの組み合わせはヴォルケン校では特別ではなかったが、ウトは学年一番の美形だった。

 だから女の子にモテた。入学草々に一学年上の女子にウトは告白され、彼はそれを丁重に断った。多分最初にウトに告白した女子は彼を誂おうとしていたのだろうが、それからの二週間、ウトは何度も女子に絡まれていた。だけど僕の知る限り、彼はいつも笑顔で彼女たちの相手をするが、ガールフレンドを作ろうとはしなかった。

 容姿がいいだけではなく、ウトは軍事の天才でもあった。ダブルアイ学ではピカ一なのはもちろん、戦略戦術学と体術トレーニングでも優れていた。僕は何とか平均点を取るのがやっとで、ウトの成績を嫉妬した。

 なぜそんな優秀な生徒と僕みたいな凡人が同じ部屋割りになったのかはわからないが、偶然僕たちは同じ部屋に入れられた。新入生はみな二人ずつのチームにわけられ、チームごとに一つの部屋になる。成績は個人ごとにつけられるが、上のクラスに上がるためにはチームの成績が大事になってくる。そのため、優秀な生徒が劣等生と一緒の部屋になるとよく優等生の方が文句を言うが、ウトはそのようなことは一度もしなかったし、僕の成績を責めるようなこともしていない。逆に僕と一緒の部屋でよかった、みたいなことを言ったことさえある。

 ウトは成績を無視していたわけではない。僕はプレッシャーに耐えられず、できるだけ成績からは目を背けようとしていたが、ウトは酷く自分の成績を気にしていた。彼はそれを隠そうとしていたが、僕にはうっすらとそれがわかった。思い通りの点数を取れないとウトは不機嫌になり、黙りこんでしまうことが多くなるのだ。


 制服に着替えるとタオルに身を包んだウトが洗面所から出てきた。僕は彼が着替えている間眠っているふりをして、顔を布団の下に隠した。

 ウトを殺したい。その願いが脳裏で反響した。僕はウトを好きだったが、彼を殺したいという衝動はそれより大きかった。できれば今すぐウトを殺したかった。だがそうすれば僕は殺人者となってしまい、少年院に送られるか、処刑されてしまう。それは嫌だった。

 それに自分でもなぜウトをそんなに殺したいのか理解していないのも事実だった。ウトは虫唾が走るほど鈍感でその気はないくせに僕に馴れ馴れしてくるし、優しくしてくれるのがムカついた。劣等感とコンプレックスもあった。両方とも動機としては弱いということは自覚していたが、無償にウトを殺したいこの気持は言葉では表せない。ただひたすらウトに消えてもらいたいのだ。そうすればこの胸の振動も、この雨漏りのように滲みこむ劣等感も感じなくなるのではないか? そう僕は思う。

 だが同時に僕は絶対に捕まってはならない。そうなったら元も子もない。ウトを殺すために自分の人生を棒に振るのは愚かに思えた。だから合法的に彼を殺すか、絶対にばれない方法を使うしかない。今のところは何も思いつかないが、僕は彼を殺すことができる瞬間を待ち望んでいた。

「OK」着替えをすませたウトが言った。「じゃあイノ、いこうかい? 今日は兎狩りの初日だし、朝食に遅れない方がいい」

「ああ」僕は頷いて彼の深茶色の瞳と目を合わせないように努力しながら立ち上がった。

 兎狩り。それはこのSF育成学校で特別な行事だった。毎月行われる兎狩りは毎回生徒の生命を奪っていく。だが同時に兎狩りはこの学校で進級できる唯一の方法でもあった。

 それが今日始まろうとしていた。

読んでくれてありがとうございました。評価・感想お願いします。次話は一時間後!


メリークリスマスとハッピーホリデー!


Marian Flayer 24th of December 2012

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