猫探し掌編
製作時間二時間ほど。
ジャンルが分からない作者です。そして短いです。ちなみに作者、犬派猫派なら猫派です。
猫探しってミステリーです。
猫探しを頼まれた。
依頼人はクラスメイトの赤松。飼い猫がどこかへ行ったらしく、見つけたら教えてほしいと友人たちに言っていた。
赤松は性格の明るい人気者だったから、数人の生徒が放課後皆で探しに行こうと言いだした。赤松は遠慮していたが、周囲はすでに乗り気だった。
その中に帰宅部で暇そうにしている僕も巻き込まれた。事実暇だったから不都合はなかった。
隣のクラスや、赤松の部活の連中、仕事が終わった教師まで動いて、四十人くらいは動員されたようである。
猫を探すために住宅地まで来て、少し考える。
足で探しまわってもいいが、効率がいいとは言えない。
まず特徴。まだ一歳で、白い猫だが右足の先だけ黒いらしい。
赤松の住所は聞いていた。その近くで、猫が行きそうな場所を一つ一つ確認していくのがいいだろう。
「公園は皆探しに行くだろうし。どこかの店。路地裏。他の猫がいる場所。それから」
「おーい、やっしー」
道端で考えていると、変なあだ名で呼ばれた。
僕の名前は社だったから、やっしーというあだ名は分からなくもない。今まで呼ばれたことのないあだ名であることも事実だったが。
「早村か」
振り向くと、適度に見慣れた顔だった。
「はろはろー、お元気? 私はそこそこ」
「僕もそこそこだ」
早村は同じクラスで、僕の隣の席の生徒だった。生物部に所属していたはずである。
「やっしーというのは君のオリジナルか」
「アドリブ」
「そうか。なにか用か」
「お願いがあってきたのよね」
「お願い?」
「猫探し、手伝ってよ」
「僕は今、赤松の猫を探しているんだが」
「そうそう、その猫。誰よりも早くそれを見つけたいの」
早村の言うことは少し不可解だった。なぜ早村が赤松の猫を、それも急いで探しているのだろう。
「誰かと競争でもしてるのか」
「過去の自分と競争してる」
どや顔するな。
わざとらしく頭を押さえて見せる。
「真面目な回答を期待してるんだが」
早村はむー、と唸った。
「とにかく猫を見つけなきゃいけないんだよ。大丈夫。目的は一致している」
「君の目的は『誰よりも早く』見つけることだろう。僕は他の誰かが見つけても構わないと思っている」
そう答えると、早村はニヤリと笑った。
「でも一番早く猫を見つけるの、やっしーだと思う」
「根拠は?」
「やっしー、物を探すの得意じゃん」
早村の言うとおり、物探しは昔からよく褒められた。
僕としては可能性の高い場所を順番に探す作業をしているだけなのだが、それがいつもよく当たるのである。
一年のときにいくつか失せ物探しを手伝って友人に喜ばれたことがあるし、物を探すのが得意という噂を早村が聞いたことがある可能性は十分にある。
「やっしー、もう探すポイント決めてるでしょ」
「決めてるけど、それは早村の目的とは違う」
「どういう意味で?」
「一番確率が高いのは、公園裏の雑木林にある大きな切り株。日当たりがいいのか、猫がよく集まるんだ」
僕の言葉に、早村が頷く。なぜか満足そうな表情をしていた。
「でもそこにはきっと他の奴も向かっている。だから僕は行かないつもりだ」
「やっしーとしては他の誰が見つけても構わないから。そして確率通りに猫がそこにいたら、私が一番に見つけることはできない」
「そういうことだ。猫を早く見つけたいなら、僕と別行動をとってすぐにそこに向かったほうがいい。他の公園を探している連中と競争になるけど、確率的にはね」
しかし早村は、僕の答えに首を横に振った。肩までの髪がひらひら揺れる。
「公園は私も行こうとは思ってない。私も一ヶ所、怪しい場所を考えてるんだよ」
「予想があるのなら、そこに行けばいいだろう」
「私は物探すのって苦手だからさ。やっしーも同じこと考えてたらそこに探しに行こうと思って」
「なるほど」
早村にとって、僕の役割は予想に信頼性を持たせることらしい。それは過剰な信用とも取れるが、やることは早村の予想と僕の予想が被っているか比べるだけだ。僕に責任はない。
「いっせーのーせで言おうよ」
「いちにいさんはいにしてくれ」
「いーちにーさーんはい」
僕と早村の口が動く。
「「ゴミ捨て場」」
二人の言葉は一致した。
そして僕と早村は近くのゴミ捨て場を順番に探し、四つ目で猫の死体を見つけた。
写真で見た、赤松の猫だった。頭がつぶれているが、白い体に右足の先だけ黒いという特徴が一致している。
一瞬だけそれを気持ち悪いと思って、すぐにその考えを打ち消した。
「車にはねられて、ゴミ捨て場に隠されて。私たちの予想通りね」
「可能性としては高くなかったが、ゴミ捨て場は誰も探さないと思ったからな。早村は何故これを予想した?」
「昔、うちの猫が全く同じ目にあっててさ。勘だよ」
早村は血まみれの猫を拾い上げると、用意していたらしい袋に入れた。彼女は始めから猫が死んでいるものと考えていたようだ。
「どうするんだ、その猫」
「埋めるわ。どうしようもないもの」
「赤松には話すのか」
「話さない。知らない方がいいわよ。私ね、命は綺麗なまま保存するのがいいと思うの」
早村が猫を入れた袋を抱える。
「赤松さんの頭の中には、綺麗なこの子の記憶が保存されていた方がいいわ」
早村は今から埋めてくると言った。穴を掘るのを手伝おうかと聞いたが、彼女は友人に頼むからいい、と断った。
早村はじゃあねと手を振って、背中を向けた。僕もじゃあなと答えた。
早村が角を曲がったところで、僕も歩き始める。
早村の後をつけるつもりだった。早村は赤松には何も言わないつもりのようだったが、僕は墓の場所だけでも突き止めて、赤松に教えてやろうと思ったのだ。
そして角に近づいた時、風に乗ったのか彼女の独り言が聞こえた。
「頑張って一番に見つけて死体ゲットしたのになぁ。もっと綺麗ならいい剥製になったのに」
拙作をお読みいただきありがとうございました。お疲れ様です。
実はこの作品、以前書いた掌編(n7986u/)の続き……前作も大して読者がいないのに作者はなにをやっているんでしょう。一応本作だけでも分かるようにはしようとしました。でも短い作品なので、前作も読んで読んでいただけたら喜びます。