婚約破棄の代償に国を救っちゃいました……
「いったい君のどこに価値があるのかな、モニカ」
「だから、何度も言ってるけど、研究には時間がかかるんだってば」
「またその台詞か。いい加減、僕も聞き飽きたよ。……なかったことにしよう。僕たちの婚約は、初めから間違っていたのだ」
第二王子のキャメロンが、やれやれと言いたげに首を横に振ります。
(どうして分かってくれないの……)
あたしは何度目かもわからないやり取りを、少しだけ億劫に感じながらつづけます。
(大丈夫。キャメロンだって、研究には理解を示してくれてたんだ)
キャメロンの赤い前髪をじっと見ながら、あたしは根気強く語りかけます。あいにくと向こうは、あたしのほうに視線をくれようともしませんでした。
「もう少し時間をちょうだい。そうすれば必ずあたしは――」
「加えて、その喋り方だ」
キャメロンがあたしの言葉を遮って、口を開いてたんです。
「えっ?」
「粗野で下品。僕のパートナーにまるでふさわしくない。僕にはフィオネのような気品ある女性こそがふさわしい!」
「んなっ!」
かっとなりました。
頬が赤くなった自覚もあります。
確かに、あたしは学術書ばかりに夢中で、貴族が受けるべきマナーや作法に疎いんです。礼儀に欠けてるところがあるかもしれません。だからって――。
「これは子供のときからの癖だって、キャメロンも知ってるはずじゃん」
「少しは恥じらいを覚えたまえよ。いっしょにいる僕のほうが恥ずかしい」
意識すれば上品な言葉づかいだってできます。だけど、すぐに息が詰まりそうになるんです。
何よりもあたしが悔しかったのは、数日前まではキャメロンも、こんなあたしを褒めてくれてたところなんです。
『君といっしょだと、自分が王族であることを忘れられる。肩の力が抜けると言えばいいのかな、すごく安心するのだ』
認めてくれてたはずなんです。
(たった数日で、この変貌ぶり……)
恥辱を受けました、この上ないほどの。
あたしのこれまでの人生を丸ごと全部、否定された気分です。育ちとか考え方とか、そういうパーソナルな部分って、たぶん否定しちゃいけないところだと思うんです。それが仮にも婚約を結んだ相手なんであれば、なおのこと――。
「嘘だったの? あの日、あたしにかけた言葉は、全部嘘だったって言うの!?」
「当たり前だろう、モニカ。君の研究に価値があると思ったから、婚約を結んだのだ。そうでなければ、いったいだれが君のような慎みのないお転婆を、妻にしたいと思うのだね?」
「……」
「研究に価値がないとわかった今、君は用済みだ。早くいなくなってくれないか? 君のような野蛮人を見ていると、吐き気がする……」
まるで汚物でも見るかのように、キャメロンがあたしを蔑みます。
ちょっとでも彼の言葉にドキドキと胸を躍らせてた昨日までの自分が、なんだかすごく惨めな気がしました。
(泣くな……泣くんじゃない! こんなやつに見せる涙なんて、あたしは持ってないんだから)
気がついたときには、あたしはもう部屋を飛び出してたんです。
「全く……。最後の最後まで慌ただしい女だ……」
扉の後ろでキャメロンが、そんなようなことを言ってたようにも聞こえましたが、はっきりとはわかりませんでした。
✿✿✿❀✿✿✿
(どうしよう……)
帰るべき場所がありません。
あたしの自家はサーレンディール公爵家です。公爵家なんで、王族との婚姻も認められてます。その結果がこのざまであることは、もはや言わずもがなでした。
自家からは、キャメロンとの婚約を期待されてただけに、戻れそうにありませんでした。
それに俗っぽい表現か、それとも学者じみた言葉しか使えないあたしを、お母さんは毛嫌いしてます。その態度は最後まで変わりませんでした。気持ちのうえでも、もう自家には戻りたくありません。
(魔法研究所……もダメか)
研究仲間であるあたしを庇ってくれる見込みは高かったんですが、第二王子が魔法の研究を敵視してるんで、いずれは研究所自体が閉鎖されるはずでした。
もはや、あたしには帰るべき場所が、この国のどこにもなかったんです。
「はあ……」
思わず、大きなため息をついちゃいます。
(どっか遠くへ行きたい……)
できるだけ遠くに。
あたしのことなんかだれも知らないような、そんな場所に向かいたかったんです。
そう思ったら、いてもたってもいられませんでした。
一刻も早く、こんな場所から逃げ出したかったんです。
移動するにしたって、お金が必要ですが、幸いにも今のあたしは麗しのお姫様。豪華なドレスに髪飾り、指輪と……お金になりそうなものをたくさん身に着けてます。
(こんな感じかな……)
すぐにみんな売っ払って、あたしは見様見真似で町娘に変身しました。
大きめのダボっとした群青のスカートに、足元まで広がったエプロン。髪をまとめるリボンは、どれも刺繡の施された高級品ばかりです。なので代わりに、あたしは髪のほうをさよならすることにしました。
(もうこの国には二度と戻って来ない)
決別の証しに、あたしは買ったばかりのナイフで髪を切ります。
長い髪は貴族の特権です。
明るい茶色で、少し癖のある髪はあたしのお気に入りでしたが、いざ手放してみると、なんだか新しい自分になれたような気がして、胸のすく思いもありました。
「待って、あたしも乗りたいの!」
目の前で出発しちゃった乗合馬車に、どうにか入れてもらってあたしは旅立ちます。
行き先はありません。
新鮮な未知の世界を前に、あたしは深呼吸をしてました。
心地よい空気が鼻から入って、体中を駆けめぐってくのがわかります。
風になれたというのはちょっぴり大げさですが、自分が大自然と一体になれたようにも感じられました。
(お父さんには相談したほうがよかったのかも)
淑女として育たなかったあたしにお父さんも頭を抱えてましたが、お母さんとは違って、最後のほうはあたしを許してくれてたように思います。
(ごめんね)
心の中で、不肖の娘だと謝罪します。
でも、もうあたしは決めちゃったんです。
✿✿✿❀✿✿✿
10日ほど過ぎたでしょうか。
このささやかにして壮大な冒険の中で、一番ひやりとさせられたのは関所を通過するときでした。あたしは荷台に隠れてやり過ごしたんです。
つまり、ここはもうアリアント王国の外なんです。
そうして、そこから3日は歩きっぱなしでした。
もうお金はすっからかん。いつの間にか、服もびりびりに破けちゃってます。
「……」
さすがに、社交性のないことに定評のあるあたしでも、今の自分の服装には恥じらいを覚えました。
(できれば、早く村を見つけたいかな)
あたしの専門は農学ですが、植物学が転じて薬草にも一定の造詣があります。本格的なものであればともかく、小さな集落であればあたしの力でもお手伝いできる公算があったんです。
夜。
あたしは一軒の小屋を見つけてました。
「すみません」
戸を叩いて、あたしは中に声をかけます。
ろうそくのような小さな灯が見えますんで、無人じゃないはずでした。
(……)
少し迷ってから、あたしはもう一度扉をノックしました。
「あの……」
根負けしたようで、小屋の中の光が揺らぎます。
まもなく、扉が開かれてました。
中から現れたのは、1人の中年男性でした。
「食べ物を……」
そう言って、あたしは頭を下げます。
貴族たちからすれば、今のあたしはみじめ極まりない存在でしょうが、キャメロンに受けた恥辱に比べれば、このくらい屁でもありません。それにあたしは研究者として、自分よりも年の若い者に教えを乞うことだってあります。頭を下げることは、あたしの誇りを傷つけるものじゃないんです。そうやってあたしは自分の知恵を、知識を磨いて来たんですから。
男性はあたしの言葉には返事をせず、代わりに質問をして来ました。
「野盗の狼藉だべか?」
「あっ、いえ。違います。体はなんとも」
確かに、今の格好は町娘としても、ちょっとみすぼらしいものだったかもしれません。
「……。そうだべか、まあ入るべ」
小屋の中は、なんとも殺風景でした。
折檻のときに入れられた部屋を思い出します。
「……」
あたしが珍しそうに部屋の中を眺めてれば、男性が訝しむようにあたしを見てました。
「どうかしただべか?」
「いえ……」
「座るべ。粗末なものしかねえが、食べるといいだ。おらはもう食っただ」
水のように薄いスープと、顎が外れそうなほどに硬いパン。
浸して、どうにか柔らかくしてなんとか食べます。
全然おいしくありませんでしたが、それでも久しぶりの食事に涙がこぼれそうでした。
「この辺で働ける場所って?」
「……」
あたしの質問に、男性は覇気のない視線を返して来ました。まるで小娘に何ができるのかと言わんばかりです。
「薬師としてなら……」
「その話は明日するべ。今日はもう寝るべ」
少しだけむっとしましたが、あたしは言われたとおりにしてました。
ひとつしかない寝台をあたしに譲ろうとするんで、あたしは断って椅子の上でまあるくなります。
(働ける場所がないなら、ここに置いてもらおう)
薬師じゃなくたって、できることはあります。
研究所に寝泊まりしたくて、こっそりと調理をしてたんです。味は……あんまり美味しくないかもしれないですが、食べられないほどじゃありません。あたしは珍しく、料理をできるタイプのお嬢様です。
「せめてこれを羽織るといいだ。朝は冷えるさ」
そう言って、男性が身にまとってた上着を貸してくれました。
泥と獣の匂いがしましたが、贅沢は言ってられません。
ぎしぎしと軋む音を響かせて、男性が床に就きます。
そして、このときようやくあたしは、自分の愚かさに気がつきました。
ひとつしかないベッド。
ひとつしかない椅子。
この男性は一人暮らしです。
2人分の食器なんて、持ってるはずがないんです。
『粗末なものしかねえが、食べるといいだ。おらはもう食っただ』
食べられるわけがないんです。
あたしが先ほど口にした食事は、どう考えても男性の夕飯のはずでした。
(ダメだ……。これ以上、この人には迷惑をかけれない)
朝一で小屋から出てくこと。それがあたしにできる最大のお礼のようで、自分の無力さにふがいなくて涙が出そうでした。
眠りの浅い自信があったんですが、疲労には勝てなかったようです。
結局、あたしは朝までたっぷりと眠りこけちゃってました。
「起きたべか、外に来るべ」
「……ありがとう」
あたしは貸してもらった上着を返しながら、小屋の外に出ます。
「見るべ、この痩せこけた大地をさ。すまないべ。おら1人が食うだけで精いっぱいだ。薬っ葉なんて、探してもどこにも生えてねえだよ」
昨日は夜間に訪れたんで、あたしは何もわかってなかったんです。
見るも無残な茶色い世界。
「……」
しかし、それは同時に千載一遇のチャンスとも思えました。
だって、あたしはアリアント王国で、ずっとこれを研究してたんですから。荒れた大地を魔法で改良すること。これこそが、あたしの研究してた課題にほかなりません。
(お願い残ってて……)
お守りのように首からぶらさげてた小袋を、あたしは服の内側から取り出します。
(よかった……まだ、ちょっとだけ残ってる)
仲間たちと研究に研究を重ねて作った麦の種。まだ欠陥品で、完成にはほど遠いですが、やるしかありません。
大丈夫です、研究のデータはあたしの頭に入ってますから。
「お願い、あと1日だけここにいさせて!
あたしはすがりつくように男性にしがみつきます。
最初こそ、うっとうしそうにしてた男性ですが、やがては諦めたようにうなずいてたんです。
「……。1日だけさ。気が済むまでするがいいべ。できることなんて、なんもねえだよ」
あたしも力強いうなずきで応えて、男性の体から離れます。
(時間がない……)
こうしちゃいられません。
あたしたちが作った麦は、魔法への耐性が非常に強いんです。
この性質を利用して、生育の魔法をかけつづけることで、穀物を急成長させられるようにするというのが、あたしたちのプロジェクトでした。
普通の植物では長期間の魔法には耐えれません。異常に生育して枯れちゃったり、あるいは本来の果実を得られなくなったりしちゃうのが常です。
もちろん、これは土地の地力を奪う行為でもあります。
だからこそ、種々の鉱物を混ぜ合わせて肥料とし、ここに魔法と反応する鉱物を触媒として加えることで、持続的な農業へと変えるんです。
しかし、ここは研究所じゃありません。肥料となるものを得るのは、後回しにするしかありませんでした。
「……」
土地の地力を吸い取っちゃう覚悟で、魔法を使いましょう。連続して効果が現れるように、触媒が必要なんですが、それも用意できないんで、代わりにあたしの血液を使います。
本当は血による魔法は、大地が汚れちゃうんですが、短期的には支障がないはずです。ナイフで指の先を切って、血を滴らせます。
そのまま素早く麦の種を播いて、あたしは大地にひざまずきます。
本物の聖女じゃないんで、あたしの祈祷では微々たる効果しか現れないでしょう。それでもしないよりはマシのはずでした。
『そろそろ飯にするべ』
途中で、男性があたしに声をかけてくれたようなんですが、あたしは一心不乱に祈ってたため、全く気がつきませんでした。
そうしてそのまま朝を迎えます。
「ありえねえだ……ありえるわけがねえべよ。おめえさ、いったい何がしただ!? 間違いねえ、これは麦の葉だべよ!」
そばで聞こえる男性の大声に、ようやくあたしは目を開けてました。
見えるのは茶色い大地に芽吹いた新緑。
草丈は、あたしの足首ほどあります。
「……やった」
くたくたになったあたしは、その場に寝転がります。
「これさえあれば、おらたちの村は救われるだ。おめえはおらたちの救世主様だべ」
涙を流しながら男性があたしの手を取ります。
「よしてよ、あたしはただの研究者。それに……ぐ~うぅ」
大事なことを話そうとしてたのに、タイミング悪くあたしのお腹が鳴ってました。
そういえば、スープとパンを口にして以来、食事をしてません。
男性が涙で潤んだ目で笑います。
「これさえあれば、もうたくさん食えるだな」
いたずらをする子供のように、目を輝かせた男性が食事の支度をしてくれます。あたしに木皿を渡しちゃって、どうやって2人でいっしょに食べるのかと思いましたが、男性は火にかけた土器で直接食べるようでした。
食事の最中に、あたしはさっき話せなかった大事なことを男性に伝えます。
「まだ畑は完成じゃないの」
「どういうことだべ?」
不思議がる男性に、あたしはかいつまんで事情を説明します。
まずは肥料となる鉱物を見つけないといけないこと。それと同時に、触媒となる魔石も必要になること。そして、あたしのたちの麦――浜津麦にある弱点のことです。
「だから、こればっかりはあたしが直接やらないといけないの」
「はあ……おらには難しいことはさっぱりだ。でも、おめえさいればなんとかなるっさ?」
「うん。大丈夫、この村はあたしが救ってみせるよ」
そこからは大忙しでした。
噂を聞きつけて来た村の人たちの手を借りて、あたしは肥料となる鉱物を探し回りました。幸いにも村の裏にある山の中腹から、それらしき鉱床を発見することができたんで、こちらについては見通しが立ったと言えるでしょう。
魔法の連続作用には触媒となる魔石が必須ですが、こちらは肥料ほど急ぎじゃありません。全然、浜津麦が足りてないからです。
そうなんです。
これこそが浜津麦の欠点でした。
急成長させた浜津麦は、魔法への耐性を引き継がないんです。
だからこそ、最初に植える種とする浜津麦は、特殊な条件で育てないといけないんです。こればかりはあたしが細心の注意を払いながら、どうにかするしかありませんでした。
✿✿✿❀✿✿✿
半年が過ぎたでしょうか。
あたしはもうすっかりと、ウリュルカ村の一員として迎えられてました。
いつまでも年頃の娘が、男性の家に出入りしてるのはよくないということで、だいぶ前からもうあたしは村の中央に建てられた家で、1人で暮らしてます。そこには外聞以外にも、あたしの薬学を見込んで、いざというときにみんながアクセスしやすい場所に居てほしいという狙いもあるようでした。
そうです。
土地全体の地力が回復したことで、少しずつですが薬草も自生するようになってたんです。あたしのほうも順調に浜津麦を増やすことができてます。
気がかりだったのは、生育の魔法を使う触媒としての魔石ですが、これに関しては、裏山を遊び場にしてる子供たちが、偶然に見つけてました。今はそれを、いつか返すという約束で借り受けてます。
当然ながら、魔石は肥料の中に混ぜるんです。なので、魔石は少しずつ削れてくんで、返すどころかそのうち消えてなくなっちゃいます。だけど、少しずつ豊かになってく村の姿を見て、ブライアンの顔にも笑みが増えてますんで、もうあたしが約束を反故にしちゃっても、怒ることはしないでしょう。
「モニカはいつまでこの村にいるんだ?」
スツールに座ったブライアンが、足をぶらぶらさせながらあたしに尋ねます。
「な~に? あんたはあたしに早く出てってほしいわけ?」
「そういうわけじゃねえけど……。みんな気づいてるよ、モニカがウリュルカに収まる器じゃねえってことくらい。心配してんだ、大人たち」
「……」
ブライアンの台詞に、あたしは言葉に詰まっちゃいました。
生育の魔法は難しいものじゃありません。腕に覚えのある者であれば、使うことはそう難しくないはずです。あたしが本当にしなければならないのは、浜津麦を完成させることのほうです。まさか、ウリュルカ村だけが貧しいわけじゃないでしょうから。
本当に手を差し伸べるつもりならば、あたしは研究に専念しなければいけませんでした。そして、そのためには適切な環境が整った場所に行く必要があります。それは、ウリュルカの村を離れるということにほかなりません。
「……モニカ?」
不安そうな目で、ブライアンがあたしを見つめます。
あたしはごまかしたくて、薬草を塗ったばかりの小さな腕を小突きました。
「子供はそんなこと、心配しなくていいの」
「痛ってえ! 母ちゃんみたいなこと、言うなよな。俺もうガキじゃねえよ」
あたしはブライアンを連れて、診療所の外に出ます。
村に来たばかりのときは、ろくに針仕事もできないような体たらくでしたが、今じゃ自分の洋服は自分で補修できます。なので、あたしの格好はウリュルカに来たときと同じでした。
横でブライアンが何か話してたようですが、あたしは上の空でした。さっき、ブライアンに言われたことをまだ考えてたからです。
まもなく、あたしたちは馬に乗った2人組の姿を目にすることになったんです。
(この村に騎士なんて珍しい……)
その格好から、騎士であることはあたしにもすぐにわかりました。
「聞け、村の衆! 我々はクラリッサ様の名代として参った」
何を言われてるのかわからず、ひそひそとした話し声が聞こえます。
あたしも隣人に尋ねてました。
「ブライアン、知ってる?」
「いんや。俺まだガキだぜ? わかるわけねえじゃん」
(こいつ……)
都合よく子供と大人を使い分けるクソガキに、あたしはジト目を向けてました。
みんなきょとんとしてたんですが、長老には心あたりがあったようです。
「まさか、女王様!?」
「いかにも、我らが主は王たるクラリッサ様である」
これには一同びっくりです。中には平伏する人までいました。
「この村については聞き及んでいる。何者か、説明できるものはあるか?」
村の人たちが一斉にあたしのことを見つめました。
それを受け、騎士の男性があたしのほうに馬を寄せます。
「……」
「これを率いているのは、お前で間違いないか?」
「う、うん……」
「そう構えるな。クラリッサ様はお前との会話を望んでいる。ついて来てもらおう」
「……モニカ」
ブライアンがあたしの手をぎゅっと握りました。あたしは心配しないでと言うかわりに、ブライアンの手にそっと触れます。
あたしは村のみんなを見渡しました。今じゃもう全員の顔と名前を知ってます。
「心配しなくていいべ、モニカ様。あんたのおかげで、この村さ救われただ」
「リュードック……」
「安心さして、行って来い」
あたしは騎士を見返します。
「お願いがあるの」
「言ってみよ」
「魔法に覚えのある者を、この村に派遣してほしい。できれば、診療所のあとを引き継げる人も」
「よかろう。我の一門から、魔導士と薬師を出す。ついでに、警固の者もつけよう。もはや、ここまで肥えた村を、ここにいる者だけで守るのは難しかろう」
あたしはうなずきました。
「ブライアン、あたしが何をしてたのかは、あんたが次の魔導士に伝えるんだよ」
「えっ? なんで、俺が」
「あんたが一番、あたしのことを見てたから」
「なっ! 見てねえよ、全然。モニカのことなんて」
「あたしを見てなくても、あたしがしてたことに一番興味を持ってたのはあんたじゃん」
「違、俺はそれを見てたわけじゃなくて……」
村の一大事だというのに、ためらってるブライアンにあたしはむっとしました。
だからこそ、その顔を掴んで無理やりあたしのほうに振り向かせます。
「できるの? できないの?」
「……。やるよ! やってやるよ。やりゃいいんだろ!」
これでどうにか、村の引き継ぎは大丈夫でしょう。
そうして馬に乗せられたあたしは、お尻を痛くしながら王都へと向かったんです。
✿✿✿❀✿✿✿
「苦しゅうない。面を上げよ」
あたしはゆっくりと顔を上げます。
玉座の上には1人の女性。
作り物と見まがうほどの滑らかで美しい白い肌。元々の美貌を引き立てる桃色のドレス。腰元まである長い髪は、まるで本物の金と思うほどに繊細でした。
(これが、この国の女王様……)
パチンと扇を閉じたクラリッサが、玉座の上からあたしを値踏みしてました。
「モニカと言ったか?」
問いにはあたしよりも先に、騎士の男性が答えてました。
「はい。この者こそがウリュルカの村を繁栄に導いた女人にございます」
「して、そちは何者か?」
「ウリュルカ村のモニカ……」
あたしは頭を下げて答えます。
「つまらん芝居はよせ。三度目は言わんぞ。そちは何者か?」
「……?」
騎士の男性が目を丸くしたのが、あたしにもわかりました。
「魔法を使い、あまつさえ医学にも覚えがある。こんなやつが村人なわけがなかろう」
どうやら嘘をつくことは許されないようです。
あたしは覚悟を決めて正直に答えます。
「……。アリアント王国はサーレンディール、公爵家が娘のモニカ」
「家出した娘が、他国で慈善事業とな? ははっ! これは傑作ぞ。……許せ。わらわに、そちを愚弄するつもりはない。しかし、そうであれば連れ戻されるのは、そちも癪であろう? 使いの者が来たらば、わらわが追い返してやる」
「あ、ありがたく」
妙な話の展開に、あたしはとまどいがちにうなずいてました。
「そちを呼んだのは簡単だ。手を貸せ、モニカ。もはやこの国の食糧問題は喫緊だ。手段を選んでもおれん。アリアント王国と聞いて合点がいったわ。浜津麦……すでに完成していたか」
「どうしてそれを!?」
あたしは驚いてクラリッサを見返しました。
「わらわの情報網をなめるでないわ。しかし、そんなものを持ち出せるとは、そちも魔法研究所のメンバーに違いあるまい」
あたしは首を横に振ってました。
「魔法研究所は解散したはず……」
「……真か? それはいったいどこぞの痴れ者か……いや、待て。サーレンディールといえば、しばし前に第二王子との縁談が持ちあがっていたな」
「……」
あたしは引きつった顔でよそ見をしてたんです。
「あいわかった。委細承知した。よもやキャメロンがここまで不明とは思わなんだ。浜津麦はまだプロトタイプか」
「魔法耐性の遺伝が難しくて……」
「いいだろう……。そちが望むだけの人材と、望むだけの材料を揃えよう。なんとしてでも浜津麦を完成させよ」
あたしはもう自分の国に戻らないつもりで来たんです。今さら、この国の人たちのために尽力することに、抵抗は覚えません。
あたしはクラリッサにうなずいてました。
✿✿✿❀✿✿✿
さらに2年が過ぎたでしょうか。
ようやく、あたしたちは浜津麦の欠点――つまり、成長魔法を使って育てると、次世代の種が魔法を受けつけなくなるという部分を克服したんです。
「おめでとうございます」
「やりましたね、モニカ所長」
「みんなのおかげだよ」
原因は浜津麦の生存戦略にありました。
浜津麦は自分自身の考える最適なサイクルから結実期がずれると、その種子の抵抗力をいじることで個体数を調整しようとするんです。ありてい言っちゃえば、急成長した浜津麦は、わざと魔法への耐性を失うことで、滅びやすくなるんです。
この性質を見つけたのは、ほんの偶然でした。たまたまあたしが疑問に思ったことを確かめた結果です。つまり、あえて成長を魔法で遅らせた浜津麦も、抵抗力を失うのかどうかを実験してみたんです。
答えは驚くべきものでした。
魔法に対する耐性は、逆に強くなったんです。
(生育中に魔法を使ったかどうかとは関係ないんだ……)
そのことがはっきりしてからは、植物との知恵比べだったと言えましょう。
試行錯誤をくり返し、あたしたちはついに、浜津麦に急成長してないと誤解させる技術を開発したんです。この技術を組みこんだ魔法を使えば、一々、抵抗力の高い親麦を使う必要がありません。子孫も魔法への高い耐性を維持するからです。
「これでやっと……」
肥料や触媒も必要ですが、それは親麦の作成よりも難しくありません。魔法を使える者を各地に向かわせればいいだけです。ウリュルカ村以外の食糧問題についても、大きな展望が開けたんです。
すぐにあたしたちは行動しました。
まもなく、クラリッサによる承認も受け、全国的な展開がはじまります。研究所のメンバーが、それぞれ祝いの言葉をかけてくれましたが、あたしはここのみんなで作った功績という思いが強かったんで、複雑な気持ちでした。
そして今日はクラリッサに呼ばれてる日でもあります。
(……叙爵じゃないよね)
さすがに、あたしをアリアント王国の人間だと知ってるクラリッサが、爵位を授けて来るとは思えません。ですが、もしもそうなったらあたしは断るつもりでいました。
もう貴族の騒動に巻きこまれるのはこりごりです。
それにキャメロンしかり、身分の高い男性は性格のねじ曲がった人間しかいません。このことは国が異なっても、変わらない事実のようでした。あたしはもう、研究者として生きたいんです。
急いで王都に着くと、クラリッサ自らがあたしを出迎えてくれます。
あたしはぎょっとしちゃいました。
(どういうこと……?)
火急の用件であれば、いつかの騎士のようにクラリッサの名代が駆けつけるでしょう。
あたしを呼び出しておきながら、あたしに用があるのはクラリッサ本人じゃないということなんでしょうか。
嫌な予感は、クラリッサの一言で確信へと変わります。
「許せ、モニカ。相手が相手だ。わらわも無下にはできん」
「……」
「馬鹿王子ではないぞ」
キャメロンかと身構えたあたしに、クラリッサが笑いながら声をかけます。クラリッサに率いられるようにして向かった先――そこに待ってたのは、エゼルハートです。
(アリアントの王太子ッ!)
黒みがかった桃色の髪。凍てつくほどに研ぎ澄まされた双眸。
間違いありません。
この人は第一王子のエゼルハートです。
「待たせたな」
「とんでもありません」
あたしの頭を越えて、クラリッサとエゼルハートの間でやり取りがなされます。
「モニカ博士をアリアント王国に連れて帰らせていただきたい」
「もとよりそやつはアリアントの民だ。構わんぞ。しかし、ただでというわけにはいくまい」
「聞けば、この国は浜津麦で豊かになりつつあるそうで。礼は十分に尽くしたと考えております」
「わらわにではない。モニカによ。自国に帰りたくない事情があるのだろう?」
エゼルハートがあたしのほうを向きました。
そうして近づいたかと思うと、頭を下げて来たんです。
「ほう」
「えっ……」
会釈ばかりの小さなものとはいえ、王家の人間が頭を下げるという行為が、どれほど屈辱的なことかは、いくらあたしに常識がなくても理解してます。
「……天候が乱れている。大地が悲鳴を上げ、もはや私たちだけでは手の施しようがない」
そうでしょうとも。
だって、魔法研究所で浜津麦を研究することになった最初のきっかけこそ、アリアント王国に未曽有の異常気象が訪れるという予兆があったからにほかなりません。元々、あたしたちはそれに備えるために研究をはじめたんです。
「でも……」
「博士の力をお借りしたい。このとおりだ」
「……」
この国で浜津麦は完成しました。
種子ならあたしの手元にあります。
分けることが可能です。
あたしがアリアント王国に戻る意味はあまりないんです。
「昔の仲間が待っていると言ってもか?」
「えっ?」
「私の一存で、愚弟が閉鎖した魔法研究所はすでに再開している。それに相応の見世物を用意した」
とまどうあたしは、クラリッサに助けを求めます。
「もはや救国の英雄だ。そちを除け者にする阿呆なぞおるまいて。それでも思うことがあるならば、またわらわの元に戻って来よ。なんならアリアントに戦を仕掛けてやってもよいぞ。弱体化した今ならば、そち1人を奪うことなぞ造作もあるまい。誇れ――わらわとイズルベシアには、それだけの借りがそちにある」
「……」
これには落ち着き払ってるエゼルハートも、眉をぴくぴくと動かしてました。
クラリッサのは過大評価だと思います。
でも、冗談でもクラリッサがそう言ってくれたことは心強かったんです。
(お父さんには会って謝ったほうがいいかもしれない)
浜津麦を完成させたということは、もはやこの国でもあたしがやるべきことはあまりありません。それならば、エゼルハートたちの力になるほうが大事なことのように思えました。あたしはアリアント王国に戻る決心をしてたんです。
クラリッサに別れを告げて、あたしはエゼルハートと共に王城を出ます。
「見世物ってお芝居?」
エゼルハートが用意してくれたという内容が気になって、あたしは尋ねます。舞台や芝居などを見せられても、あたしには面白さがよくわからないからです。
「そなたにとっては、もっと興の乗るものであると確信している。まもなくだ」
前方に女性の姿。
エゼルハートが手を挙げて合図をすれば、女性は臣下の礼で答えます。お付きの者に間違いありませんでした。
その女性が引っ張って来た人物を見て、あたしは息を飲んでました。
(キャメロン……)
赤い髪と、人を人とも思わない憎たらしい顔つき。
一時はあたしと婚約してた第二王子にほかならなかったんです。
いったい何を考えてるのかと、あたしはエゼルハートの横顔を見つめます。
「やれ」
エゼルハートの合図で、キャメロンを縛ってた縄を女性が切りました。
ゆらゆらとした足取りで、キャメロンが騎乗したあたしたちに近づいて来ます。
「止まれ。そこに這いつくばって、許しを乞え」
驚くほど冷たい声音で、エゼルハートが命令します。
その内容は、会釈どころの騒ぎじゃありません。明らかにやりすぎでした。
ですが、キャメロンは止まりません。
「よくやったモニカ! やはり君は僕が見込んだとおりの天才だ。さあ、僕のもとに戻って来るのだ!」
「い、いや……」
私は首を振って拒否し、それを聞いたエゼルハートは下馬してました。
「どこまで貴様は愚かなんだ。今やモニカ博士は、貴様とは格が違うのだよ。せめて死んで詫びろ」
美しい動作でエゼルハートが腰に佩いた剣を引き抜きます。そのまま流れるように、キャメロンの首を切断したんです。
(あっ……)
いい気味だと、胸のすく思いを感じました。ですが、それと同じくらい、殺さなくてもよかったのにという思いもあたしの中にあったんです。
止める暇なんてありませんでした。
「……楽しんでもらえただろうか?」
あたしは胴体とさよならしちゃったキャメロンの頭を見つめます。
「平気なの? あなたが罰されるんじゃ……」
「さすがに見つかれば、咎められるだろうな。しかし、ここにいる者がみな口をつぐむならば、発覚のしようがない」
平然とエゼルハートは言ってのけます。
「殿下、わたくしは殿下に絶対の忠誠を捧げております」
言いおえるよりも先に、お付きの女性はいそいそとキャメロンの遺体を埋葬しはじめました。
「この場に愚弟は来なかった。そうだな? エリーゼ」
「もちろんです、殿下。キャメロン様は共にイズルベシアへ向かうという、殿下からの再三に渡る要請を拒否し、現在、失踪中です」
「よろしい」
エゼルハートがあたしの顔を見つめます。
あとはあたしの気分次第。そういうことでした。
(……)
あたしもうなずいてエゼルハートに賛同の意を示しました。
さすがに、この空気を読めないほど、あたしは融通の利かない娘じゃないからです。
「万一にも、王家が頭を下げている姿を、自国の民に見られるわけにはいかないのでな。結果的には、それが功を奏した」
「……」
「そなたは優しいのだな。こんな愚弟のために、なおも悼んでくれるのか」
(えっ……)
どうしてエゼルハートは、あたしの感情の変化に気がついたんでしょうか。
確かにあたしは今、少しだけ悲しみました。
どんな相手であろうとも、自分の知ってる人が亡くなるというのは、ちょっとだけ寂しいように感じたからです。
エゼルハートがあたしのことを見つめます。
あたしは慌てて、その視線から逃れようと、顔を背けてました。
「……」
知らなかったんです。
男性の王族の中にも、こんなふうに周りに気づかいのできる人がいるなんて、あたしは思ってもみませんでした。
お付きの女性がキャメロンの遺体を、しっかりと埋葬してから、あたしたちは再びアリアント王国を目指しました。女性は目ざとく腐敗の魔法をかけてましたんで、あの様子では万が一掘り返されたとしても、その頃にはだれのものだか見当もつかない白骨になってることでしょう。
無言のまま馬を進めます。
しばらくしてから、あたしは思い出したようにエゼルハートに尋ねてました。
「ネーベルシュリア公爵家の娘は?」
あまり思い出したくはないんですが、あたしと第二王子の関係がおわったとき、キャメロンは次の女性をすでに選んでる様子でした。
「フィオネか……。半分は愚弟の勘違いだ」
「えっと……」
(残りの半分は勘違いじゃなくて本物ってこと?)
意外でした。
フィオネに気があるようには思えなかったからです。
「フィオネは政治的な駆け引きに抵抗のない女のようだからな。キャメロンであれば御しやすいということで、アプローチをかけたようだ。こちらも私の一存で、止めた。ニコラスの妻とすることで手を打ったのだ」
「ニコラスって第三王子の!」
表舞台に立つことこそ少ないですが、魔法の天才としてあたしたちの間では頻繁に話題に上がります。
「あやつはあやつで社交性に欠く。フィオネくらいしたたかな女を娶ったほうがバランスがいい」
そう言って、エゼルハートがため息でもつくように頭に手をやりました。
その様子がなんだかおかしくて、ついついあたしは笑っちゃいました。
「ふふ」
「何がおかしい」
「違うの、ごめんなさい。王家の人でもそんなふうに、悩んだりするんだなって思ったら、なんだか」
エゼルハートが苦笑を浮かべてあたしを見ます。
「そなたの中では愚弟が王族の基準か。あんなものといっしょにしないでくれ」
「うん、もうしない。苦労してるんだね」
あたしはゆっくりと馬を歩かせます。
(なんだろう……。すごく楽しい)
エゼルハートも馬を並足にして、あたしの横になりました。
「そなたのほうはどうなんだ? 浜津麦は未完成だったと聞くが」
「ああ、それは――」
あたしはこれまであった出来事をエゼルハートに話します。
キャメロンとは違って、エゼルハートは興味深そうにあたしの話に耳を傾けてくれました。エゼルハートは研究の価値を、心からわかってたんです。
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関所までの5日間が、あっという間に感じられるほどでした。そして、それはあたしの勘違いじゃなければ、エゼルハートも同じ気持ちのはずだったんです。だって、あたしといる間、エゼルハートは明らかに笑顔が増えてましたから。
関所を通るとき、門番にエゼルハートが声をかけます。
「愚弟はどうした?」
「お帰りなさいませ、エゼルハート様。キャメロン様は出立しておりません」
「うむ。引き続き、捜索を頼む」
「はい。しかし何ぶん手前どもも忙しいため、お時間がかかってしまうかと」
予定調和。
それはただ既定路線を確認するだけの茶番でした。
ここにもエゼルハートの手の者がいたんです。
魔法研究所が近づくに連れ、あたしたちの時間はおわろうとしてました。
馬を止めるエゼルハート。
差し伸べられた腕を取って、あたしは下馬します。そのまま、エゼルハートは馬をエリーゼに引き渡してました。
(最後になんてあいさつをすればいいんだろう)
最後だと思うと、胸がチクリと痛みました。サーレンディールの家に戻ったとしても、王太子であるエゼルハートとは接点を多く持つことは難しいでしょう。
「たまには来てね」
あたしは下手くそな作り笑いで話しかけます。あたしを見返したエゼルハートが、ゆっくりとうなずいてました。
研究所へと向かって歩きだします。
そんなあたしの背中に声が飛んで来ました。
「そなたには好いひ……いや、すまない。忘れてくれ。近いうちに、研究所を訪れる」
振り返ります。
去ってくエゼルハートを追いかけて、思わず、洋服の一部を掴んでました。
ほとんど蛮勇に近い行為です。
相手がエゼルハートじゃなければ、ただでは済まされなかったでしょう。
好い人はいないのか?
つまり、心に決めた人はいるのかという問いです。
「い、いないよ……。だって、あたし今までイズルベシアにいたんだし……」
やっちゃいました。
自分の行動力が恐ろしいです。
変なときに自主性を発揮しちゃったんです。
恥ずかしくて顔を上げることができません。
エゼルハートが衣服を摘まむあたしの指を、ゆっくりと剥がしてきます。
迷惑だっただろうかと、急に不安になって俯いてた顔を持ちあげます。
「ならば、私が茶に誘ってもよいだろうか?」
真摯な2つの瞳が、真っすぐにあたしを射抜いてました。
「でも、あたし……喋り方とか変だし……」
自分から勇気を出したはずなのに、もうあたしは日和ってました。
「構わない。そなたが城下町を選ぶというのなら、私もそこへ向かおう。それでも人目が気になるというのであれば、借り切ったっていい。私はモニカ博士という1人の女性と、茶を飲みたいのだ」
胸がきゅーっと痛みました。
(どうしよう……こんなときになんて言えばいんだろう)
キャメロンのときとは全然違います。
学術書だけじゃなくて、もっと恋愛小説にも目を通しとくべきでした。
髪を伸ばして来なかったことを、今になって悔やみます。
「……ん」
私は縮こまったように、うなずくことしかできませんでした。
救国の英雄と、王太子の相手。
どう転んでも、あたしには幸せな未来しか待ってなかったんです。
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