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8話

ガヤガヤと騒々しくなってきた。夏の蝉の声の方がマシなくらいだ。

あーもう。なんで今日に限ってこんなに飲み会の予約が多いかなぁ。宅飲みやってよ。

心の中で愚痴を吐くが、休む暇などひとつも無い。足が絡まりそうで、今すぐにでもベッドにダイブしたい。

ピコン

チッ。誰だよこんな忙しい時にLINEをしてくるバカは。

「明美!五番卓注文!!」

「はい!!!」

あたしゃ高校球児か。うちの店のモットーとして大きな声でハッキリとという学校の挨拶のような意味のわからないモットーがある。今の私はこれまでの誰よりも声が大きいだろう。

「ご注文お伺いします!」

「うーん...そうだなぁ...生3!お前ら他なんかいる?」

なんでまだ決めてねぇんだよ。もうこのバイト辞めようかな。

「俺唐揚げ!」

1人の男がそう口にすると同グループの複数人から批判を浴びた。うちは今そんな時間ないんですけど。早くしてもらえないかなぁ。私は思わず貧乏ゆすりをしていて苛立ちが隠しきれていなかった。

「悪ぃなねーちゃん。とりあえず生3つと唐揚げで!」

「了解しました。生3つと唐揚げですね!」

はぁ。しんど。シャトルランでももう少しマシじゃないかな。

「生3つと唐揚げ〜!!」

私は厨房に向かって腹から声を出した。本来はこれほど大きな声を出さなくても良いんだけど、今日は人が多いし。それに私の声は通りにくい。

「明美!これ3番卓に!!」

「は〜い!!!今持っていきま〜す!!!」

さっき注文撮り終わったばっかなのに。足を上げるのが億劫になる。鉛のように重い足を無理あり持ち上げこれでもかと力強く地面をけった。私はこの時間が果てしなく感じた。お願いだからみんな早く帰って。そんな私の願いも虚しく、結局閉店まで人は残り続けた。

あぁもう無理だ。足が上がらないや。私は燃え尽きた。あしたのジョーのごとく。読んだことないからあまりよく分からないけど。

私はふと思い出した。そういや誰かからLINEが来ていたな。ポケットからスムーズにスマホを取りだし、タスクバーを見た。誰だろう。LINEの正体は母だった。また心配になって連絡をよこしたのかな。全く、心配性なんだから。さてさて内容はっと。

昌子︰最近良樹の様子がおかしいのだけれど何か知らない?明美なら何かわかると思って

頭にはてなマークが浮かんだ。良樹の様子がおかしい?いつもおかしいじゃない。うーん。いつもと様子が違うとすると彼女に振られた〜とか、好きな人に彼氏が出来た〜とかかな。でも良樹恋愛無縁だしなぁ。

あけみん︰彼女に振られたとかじゃないの?どういう風におかしい?

ひとまずこんなものでいいかな。どんなふうにおかしいか言ってもらわないと分からないしね。

母と良樹の元を離れてからもう早3年が経つのか。全然帰れてないなぁ。良樹私の事もう忘れてるかも。

昌子︰それが急にナイフを3本持ち出したり、家を飛び出したりしたのよ。本人は記憶があまりないみたいだし

いやいや。私の事なんだと思ってるの?それにナイフを持ち出すとか余計に私に出来ることないじゃん。良樹怖すぎるでしょ。それに私は精神科医でもなければただの一般女性なんですけど。1回見た方が良さそうだな〜。久しぶりに家に帰るいいきっかけにもなるし。

あけみん︰何それこっわ。とにかく1回そっち行っていい?

昌子︰全然いいわよ。いつでも来な

母からの了承も得られたことだし、明日早速向かおう。おっと明日もバイトあるじゃん。どうしようかな。

「明美明日実家帰るんだろ?バイト休んでいいよ。他の人にシフト回しとくから」

たまには気が利くじゃん店長。さすがだぜリーダー。

「本当ですか!じゃあ明日お休み頂きますね!」

店長に感謝の言葉を述べ、スキップをしながら帰路に着く。なんか妙な感じがするけどいっか。

そうと決まれば明日の準備をしないとな。久しぶりに弟に会うんだからね。まぁ普通にラフな格好でいっか。なんでこんな事で一瞬でも悩んだんだろう。にしても疲れた!早く寝たい!!

歩くスピードを早め、ベッドというオアシスに向かって一目散に向かった。風呂はもう明日でいいや。


ジリリリ。朝からうるさいなぁ。うわ!もうこんな時間!気付けば家を出る1時間前だった。いや1時間なら余裕だろと思った人いるでしょ。私は風呂入らないといけないのだ。1時間じゃ新幹線間に合うかギリギリだ。私は大慌てで支度をし、もはや意味の無いスピードで風呂を出た。新幹線はギリギリ間に合った。

あぁきっつ。自分の運動不足さを実感した。そして席に着いたら気付いたら寝ていた。何とか寝過ごしはしなかったものの寝過ごしていたら姉としての威厳が無くなってしまうところだった。

ここからどう行くんだっけか。母から送ってもらった地図を見ながら曖昧な記憶を辿り何とか家に着く。懐かしい。よく良樹と外で遊んだっけ。そんな思い出話はよそへ置いといて。何故か緊張している体を落ち着かせ、チャイムを鳴らした。

「はーい!」

奥の方から懐かしくて安心する声が聞こえる。やっぱり実家はいいなとしみじみと思った。ドタドタと聞こえた足音は気付いたら目の前に迫っていて、ガラララと玄関が勢いよく開いた。

「明美!もう来たのね!」

「久しぶり!ただいまお母さん!」

感動の親子の再会を味わう時間はなく、時間制限でもあるのかと言うほど忙しく弟の元へと案内された。

コンコンコン。いくら弟といえどノックは必要だ。

「良樹〜?入るよ〜?」

反応がない。全くいつまで寝てるんだぐうたら男め。昨日の怒りをぶつけるように勢いよく扉を開けた。扉からの悲鳴が聞こえたがそんなの知らない。

「ただいま良樹ー!!可愛い明美姉ちゃんの帰宅だぞ〜!」

元気付けようとしたが、空振りに終わった。全く。少しはノリよく返事したらどうだ。

良樹に目をやった。声が出せなかった。絶句だ。喉が締め付けられている気分だ。

なぜなら、酷く衰弱した様子で目の下にはクマができ、今にも死んでしまいそうな酷い面をした弟が居たからだ。


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