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第7話 覚醒の跳躍

 共生学園のグラウンドに設営された、巨大なドーム型フィールド。

 その周囲に各チームの控えブースが並び、選手とサポート陣が調整に忙しく動いていた。

 その中、ひときわ目立つ視線が集まっていた。

 小さな人影――フード付きのメイド服を着た、“幼女”の姿。


「……あれ、誰の妹?」


「関係者以外立ち入り制限されてるはずじゃ……?」


 ざわめきが広がる中、黒髪のエリート少女・如月凛音はブースの奥でモニターを見つめたまま言った。


「……違う。あれは、ユノね」


「えっ!?ユノって、あの“特例”で入学したロボットの……?」


 周囲のメカニックスタッフがざわつく。


「はぁ……正直あまり人に見せたくなかったんだけどな……仕方ない」

 

 翼が堂々と歩み寄り、小さな手を取る。


「紹介しよう。これが支援ユニットを接続して、合成体ジェネシスになったユノだ……顔を見せてやれ。ユノ」


 ユノは静かにフードを外した。

 華奢な体つきに、透き通るような栗色の髪。

 腰には、リスと同じ尻尾が付いている。

 大きな黒い瞳には、芯の通った光が宿っていた。


「ご挨拶、申し上げます。私は《ユノ》。支援ユニット《リプロ》と同調し、適応力を優先したフォームへと再構成されました」


 小さな声だが、響きは凛としていた。

 ロボットらしからぬ、妙な“人間味”と気高さ。


「えっ……見た目、完全に幼稚園児……」


「でも、骨格フレームがあるだろ?どうやってあんなに小さくなったんだ?」


 エンジニア組や観戦者たちが騒然とし、ある者は好奇の目を、ある者は畏怖を抱いて見つめていた。


 その一方で――


「……面白いロボットよね。天城翼」


 如月凛音が静かに笑った。


「自律機構とナノ再構成で“省エネ最適化”。見た目で油断させて、実力で上回る。──でも」


 凛音の視線は、真っ直ぐユノへ。


「その“意志”までが模倣でないなら……本物かどうか、試させてもらうわ」


 ユノは、一瞬だけ何かを感じ取ったように、表情をわずかに引き締めた。


「……はい。お手柔らかに」


 その目に、恐れはなかった。



 *****


 フィールドアナウンスが響く。


《ロボグラ予選・第1ステージ、まもなく開始!》


 控えエリアが緊張に包まれる中、小さな手を握った翼は、そっと耳元で囁いた。


「大丈夫。ユノは、ユノのままで戦える」


「……はい。ご主人様」


 ユノと同期しているリプロも、いつもの調子で鳴いた。


「はは☆僕ら最強のチームだね♡」


 こうして“最も小さくて、最も未知なる”少女が、戦場へと足を踏み出した――。

 


 ――――

 

 

 共生学園・ロボグラ予選フィールドミッション


 競技スタート直後。

 ユノは迅速に動いていた――が、ほんの数秒の判断の遅れが命取りになった。


「……ルート選択ミス。《スパークエッジ》に抜かれました」


「落ち着いていい、ユノ。目的は“突破”だ。順位じゃない」


 翼の声は穏やかだったが、モニターには明らかに不利な情報が並んでいた。


 他チームは自律制御に優れた最新型ロボットを有し、フィールド中央の“回転階段ゾーン”に到達し始めている。


 ユノの足は止まっていた。


「ご主人様、私の判断は……遅すぎるのかもしれません」


「違う。まだ経験が足りないだけ。ユノは“学びながら強くなる”タイプだ」


 その言葉に、ユノは小さく頷き、再び前を向いた。


 だが問題はそこからだった。


 次のゾーン――《バリア迷路》に入った瞬間、突如として通路が変形し、ユノが孤立する形で遮断壁に囲まれる。


「ご主人様! 通信が――!」


「ユノ! 落ち着いて、こっちの指示が――っ!」


 通信遮断。


 さらに足元の床が傾き、揺れ、上空から機械アームが降ってくる。

 ロボットとはいえ人間に近くなったためか足が震えて力が入らない。

 このままではダメージセンサーが反応し、自動退場になる可能性もある。


 ユノの視界が回転する。判断がつかない。

 だが、ふと頭の中にノイズ混じりの電子音が響く。


 《……おねえちゃん……危険だよ……!》


 リプロの声。


「リプロ……?」


 《瓦礫だよ!……逃げて!!》


 その時、ユノが叫ぶ。

 

「……嫌だ……私は、こんなところで終われない……終わりたくない!」


 その瞬間まるで反射するように、ユノの視界に青白い“光”が走った。


 次の瞬間、彼女の背後からナノ粒子が炸裂し――変形を始めた。


 ユノの背面がナノ粒子によって変わっていく。

 動きに連動して形成されたのは、鋭角の光翼と、脚部のスタビライザー。


「これは……新しいフォーム……!」


《フォーム発動──名称【ホーク・フォーム】

 高速回避特化・滑空支援形態》


 追い詰められた中でユノが「恐怖」に立ち向かったことが、ジェネシスとしての進化トリガーを引いたのだ。


「ご主人様……私は、怖かったんです。失敗すること“否定される”こと……でも私は逃げません。ここに居たいから!」


 全身に加速エネルギーが走る。迷路の壁に向かって跳び、回転斜面を三角跳びで突破し、開閉フェンスに滑空で滑り込む!


 同時にアナウンスが流れた。

《突破成功──ジェネシス、最終ステージ到達》


 通信復旧とともに、翼が叫ぶ。


「ユノっ! 大丈夫か!?」


「はい……私は、“変われた”気がします」


 肩に戻ったリプロが、シュルシュルと銀色の球体に戻って笑う。


「ふふん☆感謝してよね!ナイスアシストだったろ☆?」


 翼はその姿に苦笑しながらも、はっきりと感じていた。


“彼女たちは、本当に今、一歩踏み出した”のだと。



 ――――




「……進化のトリガーが“情動”か。やはり不確定要素だ」


 背後で、陽翔とディアルクが冷静に記録映像を見つめていた。


「けど……興味深い。もし、あれが制御できる領域にあるなら――」


 ディアルクが応じる。


『観察継続。覚醒条件は「恐怖の克服」。対象:マスター・天城翼』


 陽翔は目を細めた。


「“感情”か、“構造”か。俺たちの答えも、探し続けよう」

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