第18話 黒の葬送曲
ロボグラ決勝トーナメント――初戦、対戦表が電子ボードに表示された。
【第1試合】
チームA:加賀美陽翔 & ディアルク
チームB:ノワール&ネメシス
騒然とする会場。
「誰だ……このノワールって……?」
「初出場?でもネメシスの型番、見たことない……いや、軍事試作型か……?」
観客席のざわつきの中、黒いパーツで構成されている細身で無機質なロボットがステージに立つ。
全身は光を吸い込むようなマットブラック。生体の温もりを一切感じさせない冷たさ。
その背には、特徴的なブレード状のナノパーツが翼のように展開されていた。
そして、その後ろに現れたのは――
漆黒のパイロットスーツに身を包み、ヘルメットで素顔を完全に覆った“操縦者”だった。
「なんだ……この圧……」
陽翔はわずかに表情を曇らせ、ディアルクも警告を発する。
「陽翔……あいつら……未登録パターン多数だ。――要警戒だぞ」
――――
開始の号令とともに、ネメシスはブースターを点火。
その機体がまるで“霞のように”空間をすり抜け――瞬間、ディアルクの背後を取った。
「……っ、陽翔!」
「ディアルク、防御!」
応じたディアルクが背部シールドを展開するも、ノワールのナノブレードがそこを貫通する。
会場が凍りついた。
「えっ……シールドを……貫いた……?」
ノワールの動きは一切無駄がなく、そして容赦もない。
動作はまるでプログラムされた“死の演算”そのもの。
ディアルクは徹底して防御と機動回避に専念するが、次第に押されていく。
「……これは……。まるで……暴走したユノ。あのときのユノが知性を身につけたような……!」
陽翔の指示に応じて一矢報いようとディアルクが反撃に転じるも、ネメシスは一瞬で対応。
相手の行動パターンを一手先、二手先まで先読みしているかのようだった。
「第七関節ユニット、損傷確認」
「冷却系統破損」
「中核コンデンサ、限界値接近」
陽翔のインカムにディアルクの破壊が告げられる。
最後の一撃――
ネメシスのブレードが、ディアルクの胸部コアに突き刺さる。
「陽翔……。 お前と過ごした時間……楽しかったぜ……」
「……ディアルク!!!」
爆発こそ抑えられたものの、ディアルクは完全停止。陽翔もディアルクのコアを破壊されたショックで放心状態になっていた。
【勝者:ノワール&ネメシス】
――――観客席。
周囲が戦慄の静寂に包まれる中、ただ一人、唇を噛みしめる少女がいた。
桐原ミオ。
試合開始時、誰よりも早く異変に気づいたのは彼女だった。
(おかしい。……ネメシスの動き、見たことがある……)
(……あのステップ。あの一拍ずらす“独特な間合いの詰め方”。)
ミオの目がノワールのヘルメット越しの視線と交わる。
一瞬だけ、そこに浮かんだ――凛とした意思の残滓。
(……まさか、如月先輩!?)
震える手が、無意識に拳を握りしめる。
「先輩……?なんで……っ」
周囲はまだ気づかない。翼も、ユノも。
まだ確信ではない。だがノワールが――如月凛音……かもしれない。
そう。この日、ユノと同じ構造を持った“影にいた存在”が、ついに姿を現したのだ――。