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第16話 鋼の牙、再臨

 午後の訓練場。準決勝第1ステージを翌日に控えた共生学園では、各チームが最終調整に追われていた。

 天城翼は、ブースの片隅でユノ、陽翔、ディアルクと一緒にいる。

 目の前には、暴走時の損壊から復旧した銀色の球体リプロがいた。


「改めてみんな……久しぶりー☆」

 

 

「おかえりなさい。リプロ」


「お互いマスターのロボ使いが荒くて大変だな」


 ユノとリプロが嬉しそうに答える。


「ははっ。ホント、この前までボロボロだったやつの言葉と思えないな」


 少しぶっきらぼうだが、陽翔も喜んでいるのがわかった。


「そうそう☆僕、病み上がりだからね~みんなには、復活後の試運転に付き合ってほしいんだ♡よろしく~」


 説明が雑過ぎる……。呆れた翼が代わりに説明に入る。


「姉ちゃんが言うには、今回の復旧に際して隠されていたリプロのリミッターが外れたらしいんだ。暴走の件もあるし、試運転がてら陽翔と訓練してもらってこいってさ。なんで……付き合ってくれないか……?」


「OK!ディアルク。病み上がり相手だから優しくしてやれよ?」


「承知した!!」

 

 ネイビーブルーの身体を震わせてディアルクが答える。



 

 ――――


 

 巨大なホログラム・トレーニングルームの中央。

 ユノと翼、ディアルクと陽翔が対峙していた。


 翼は深呼吸をしてから言う。


「本気で来ていいよ、陽翔。リミッター解除されたユノとリプロの実力見たいからさ」


 陽翔も静かに頷いた。


「こっちも訓練目的で手加減する理由はないな。全力だ」


「始めよう――模擬戦、スタート!」



 ユノの姿が淡く光り、リプロと一体となる。

 リプロのリミッターが外れた合成体ジェネシスの姿は、暴走前のメイド服幼女の姿ではない。頭部も含めて鎧と一体化し、より洗練された大人の姿だった。

 リプロが生成したナノパーツが彼女の手足に融合し、戦闘補助機構を形成している。


「加速ユニット、展開します――ご主人様!」


 ユノの脚に機械的な推進機が展開され、一気に加速。

 その速度に対し、ディアルクは無数の小型ドローンを空間に展開。


「おもしろい……迎撃!!」


 ディアルクの動きは一分の隙もない。右腕が変形し、レーザーナイフが現れる。


「受けてみろ、ディアルク!」


 翼の操作とユノたちの並列思考が同期し、全方向から同時攻撃しているかのような素早い攻撃を繰り出す。

 ディアルクは一歩も退かず、すべてを計算で弾き返していく。

 

 その時、機械音とともにユノの姿が**ホーク・フォーム**へと変わっていった。

 両肩から展開されるメタリックブルーの翼。

 後頭部にはセンサーと補助ユニットを内蔵した飛行装備が融合し、全体が鋭角的なシルエットに変貌していく。

 

「――来るぞ、ディアルク」


「まかせろ!対空迎撃プログラム、優先起動!」


 ディアルクが一歩踏み出した瞬間、ユノの身体が蒼い閃光と共に宙へと跳ね上がる。

 その速度は、以前のホーク・フォームをはるかに凌駕していた。


「――ッ!? 速すぎる……っ!」


 陽翔の目が驚きに見開かれる。センサー上に捉えられたのは、断続的な軌道変更を繰り返す“鳥”ではなく、“稲妻”だ。


 ホーク・フォームは、暴走時に得たデータを基に飛行補正と加速度耐性を向上。

 さらにナノマシンによる細部構造の自動再構築が可能となり、空中で瞬時に翼の形状を変化させることで、異常なまでの回避能力と加速力を実現していた。


「面白いな――!!相手は直感型。相性では、こちらが有利」


 陽翔とディアルクが攻めに転じようとしたその時、ユノが突如姿を変える。

 **ホタル・フォーム**だ。

 身体は文様が浮かびあがり発光している。

 妖艶さを併せ持つ神秘的な姿。

 そして彼女は、全身を発光させて2人の前から姿を消した。


「姿を消したところで……攻撃しないと勝てないぞ!」


 陽翔の声と同時にディアルクが地面に拳を打ち込む。

 爆音とともにホログラムで生成されていた樹々が消えてユノが姿を現す。



「ユノ!頼んだぞ」


「はい!」


 阿吽の呼吸。

 次の瞬間、ユノが手をかざすとディアルクが黒いもやに包まれた。


「……っ!?黒いもや?」


 ユノの暴走を思い出し、陽翔が戸惑う。


「安心して。これは、暴走じゃないよ。ナノマシンで目くらまししてるだけだから」


 翼の声が響いたあと……静寂が訪れる。

 



 ……ドオオオオン……!!


 


 

 その静寂を打ち破ったのも翼たちだった。

 現れたのは**ハウル・フォーム**になったユノ。

 こちらも大人の姿であり、甲冑を身に着けた彼女はより騎士らしくなっていた。

 機獣も以前より大きく重厚な姿になっている。

 翼の判断での機獣の一部装甲が解除され、クロー型戦闘モードに移行。ディアルクのもとへ向かっていたのだ。



 機獣が鋭く伸びたクロウ・アームで、ディアルクの側面を急襲する。


「これは……想定外だな……!!」


「直感で動いているだろうに……動きが……読めん……!」


 一瞬、ディアルクの動きが止まる。

 そこを見逃さず、ユノが跳躍――だが、直前でディアルクが姿勢を崩して回避。


 両者、ダメージ軽微ながら消耗は蓄積。

 ホログラムの空間が蒸気を纏い、二人のパイロットの視線が交錯する。


「……お前、変わったな。翼」


「ユノがいたから、俺は変われた。もう一時の感情に飲まれたりしない」


「そうか。なら……俺たちも、証明する。感情よりも理性の方が強いってな!」


 

 最後の一撃――


 ユノの槍と、ディアルクの防御プレートが正面から激突。

 互いに吹き飛ばされ、機体は限界値寸前のアラートを表示。


 直後、AI判定が勝敗を下す。


【戦闘結果:ドロー】



 ――――

 

 

 陽翔が歩み寄る。


「お前は……やっぱり“感覚”で動くタイプだな、翼」


「そっちが“理性”で守るなら……俺は、“信じる心”で前に進むさ」


 ユノとディアルクも互いに一礼。


「お前の対応能力、良い観察対象だな。俺も参考にしよう」

 

「ありがとうございました。私たちも今回の模擬戦で、まだ強くなれると感じました」


 バチバチと静かに火花を散らす機械同士。

 だがその奥に、小さな尊敬が芽生え始めていた。


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