表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/18

第11話 真なる共闘

 ロボグラ予選第2試合のテーマは── 《レスキュー・シミュレーション》


 架空の被災都市を模したステージで、人命を救助する“非戦闘型競技”だ。

 人間-ロボットペアに課されるのは、命の重みを見極め、救助と判断を両立させる冷静さと共感力。


「これは“ただの技術競技”じゃない。精神力が試される競技だな」


 陽翔の言葉に、ユノが頷く。


「はい。ご主人様。私は人を救えるでしょうか?」


「ユノならできる。一緒に、やろう」


 


 ――――

 


 ステージは、地震で崩壊した都市エリア。


 ビルの倒壊、瓦礫の下敷き、電力喪失、爆発の危険区域まで再現された極限状況。

 制限時間は30分。救助対象は10名。


 


 翼たちは、ユノがホタル・フォームとなり小型ナノマシンを分散展開。

 生存者の生命反応をスキャンする。


「4名、地下に閉じ込められています!」


「地下ルートへ行こう。俺とユノで対応する!」


 


 翼&ユノは、瓦礫の隙間をくぐり抜け、半壊ビルの地下階層へ。

 そこにいたのは、3人の“人形状ホログラム”による救助対象。

 泣き叫ぶ子どものモデルを前に、ユノが立ち止まる。


「この声は……“恐怖”です。“助けて”と言っています」


 ロボットとは思えないほど自然な表情で、ユノはしゃがみこみ、そっと手を伸ばす。


「怖くありません。私はあなたを助けに来ました」


 その動きは、見ている観客を静かに感動させていた。


「……本当に、ロボットなのか……」


「心が通じてるみたいだ……」


 


 その頃、陽翔&ディアルクも別区域で孤立者を救助。

 落下しかけた梁をディアルクが支え、陽翔が手際よく誘導する。

 

「怪我人を安定搬送ラインへ。ディアルク、30度左に移動して保持継続」


「完了。人命の安全を最優先に行動中」


 

 制限時間残り2分。

 だが最後のひとりは、高所で瓦礫に閉じ込められ、地盤が崩壊寸前。


「間に合わない……!」


「ユノ、飛べるか!?」


「行きます。ご主人様を信じていますから!」


 


 ユノがホーク・フォームに変形。

 翼を展開し、ユノが高空へ急上昇。


 ナノフィールドを展開しながら、要救助者を抱きかかえると──


 背中のスラスターが最後の力で空を裂いた。


 轟音とともに瓦礫が崩れ──その直前、ユノは空中でスピンしながら着地。


「対象、安全圏へ搬送完了!」


 


 ――競技終了。


 試合後、フィールドに拍手が鳴り響く。


 誰よりも早く、凛音がゆっくり立ち上がっていた。


 彼女の表情に浮かぶのは、疑念でも憎しみでもない。


 ……“希望”。


「……あの子は……“機械”じゃない。人だ。人を救う心を持った、もうひとつの命だわ……」


 




「私は、人間にはなれません。でも、“人のように”誰かを守りたいと願う心は──確かにここにあります」


「それで十分だよ。……それが、ユノなんだから」


 ユノは静かに翼の隣に立った。



 ――――


 共生学園・訓練棟上階。

 ガラス張りの展望ラウンジから、凛音はひとりフィールド跡を見下ろしていた。


 そこにはもう、誰もいない。

 熱気も、歓声も、影のように過ぎ去った。


 だが、焼き付いていた。

 あの瞬間が――ユノの咆哮が。翼の叫びが。仲間と絆を結ぶ“あの光”が。


 


「……なんなのよ、あれは」


 自分に向けるように呟いた声は、わずかに震えていた。


 


 ロボグラ予選、第二ステージ・レスキューシミュレーション。


 本来なら、凛音たちエリート勢が無難に突破すべき課題。

 その中で、あの“無名の即席ペア”が魅せたものは──想定外の奇跡だった。


 


 「感情が芽生えたロボット」など、ただの未完成品。


 そう思っていた。


 けれど、ユノの行動はすべてが“意志”に見えた。

 演算でも、命令でもなく、“心”に従ったように。


「……そんなの、あるはずないのに」


 呟くたび、自分の声に信念が削られていく気がした。


 


 背後の扉が開いた。


 黒スーツの男――クロノス社から派遣された凛音の父・如月重蔵の部下が静かに近づく。


「凛音様、例の《ジェネシス》ユニットに関する追加データが届いております。ご確認を」


「……いらないわ」


 凛音は振り向かずに答えた。


「私は、データじゃなくて“あの時”を知ってる。彼らはただの偶然で動いたんじゃない。……ユノは“選んで”助けたのよ」


 その声には、確信に近い何かがあった。


「……凛音様?」


「放っておいて。私、少し考えたいの」


 部下が静かに退室すると、凛音は胸元に手を当てた。


 自分のパートナーロボット《オメガ・クロノス》は、最高の演算能力を持つAIだ。

 でも、彼とは決して“心を交わした”ことなどない。


 


 彼女はふと思う。


 自分は──


 人よりも、完璧さを追い求めすぎたのではないか。

 “揺らがない心”に憧れるあまり、本当の意味での“成長”から目を背けていたのではないか。


「私……間違ってたの?」


 言葉は涙にならず、ただ静かに夜空に消えた。


 


 その夜、彼女は初めて、自室のAI端末にこんな質問を入力した。


「ロボットに感情が生まれる可能性はありますか?」


 画面のカーソルが一瞬止まり、こう答えた。


「定義次第では、“はい”です。学習による擬似情動、共感、選択の結果が“感情”と呼ばれるならば――」


 


 彼女の手が止まった。


 そして、ふと窓の外を見る。


 明かりの消えた学園の向こう、研究棟の片隅に微かに灯るひとつの光。

 ──そこに、彼らがいる。


 


「……次は、私が問いかける番ね」


 


 それは宣戦布告ではなく、対話の始まり。

 心を閉ざした氷の少女に、初めて“ほのかな熱”が灯りはじめた夜だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ