第5話『クロマティック・ブルー』 感情ログは、空白から始まる
『クロマティック・ブルー』
第1話:感情ログは、空白から始まる
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【SYSTEM LOG】
>>> 起動確認中…
実験型感情評価プログラム
《クロマティック・ブルー v0.92a》
《初期化プロセス:未定義感情構造に基づく実行》
《インターフェース:観察型・視覚ログ記録形式》
初期選択メニューを表示します。
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「青山さん」
白衣の女性研究員に、新人が話しかける。
「赤酒さん、って言ってたわよね。どうしたのかしら?」
「いえ。あのクロマティックス計画というのが、どうしても馴染めなくて……」
「それなら、木目調の部屋でリラックスするといいわ」
「……」
「何か、異常なデータでも、観測されたかしら?」
「い、いいえ。正常値に収まっています」
「それなら、いいわ。リラックスしたら、持ち場に戻りなさい」
「は、はい……」
「それと緑川さんを呼んで貰えるかしら?」
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■ MENU
(1)NEW GAME
(2)TUTORIAL
(3)DEBUG MODE
(4)EXIT
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【INFO】
いずれかを選択してください。
※“EXIT”を選択した場合も、ログは継続されます。
> > > 入力:(3) DEBUG MODE
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カチャ、カチャカチャ……
青山のキーボードを叩く音。
色彩石に思念体、か。
懐かしいと言ったら変だけど。
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【WARNING】
デバッグモードを選択しました。
このモードではルール、勝敗条件、キャラクター設定がすべて未定義です。
システムは、あなたの感情ログを初期値として
“構造体なしの状態”でプレイを開始します。
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【QUERY】
▶ 続行しますか?(Y/N)
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> > > 入力:Y
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【NOTICE】
ルールが存在しないため、あらゆる出力は
“あなたの意図”とみなされます。
自動生成プロトコルを起動します。
▶ 感情センサー:オンライン
▶ カラーフィールド:展開中
▶ 青の濃度:観測開始
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……部屋の照明が、かすかに青に染まった。
画面はもう表示されていない。音もない。なのに、確かに「部屋がある」と分かる。
天井。床。壁。どれも存在しないはずなのに、“その気配”だけがある。
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> 《ログ:初期感情=疑念/観測開始》
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私の手は、入力装置に触れていない。
だが、青い光が濃くなっていく。
きっとこれは、私の内側の色なのだ。
いや、違う。
私が組んだはずのコードでは、この色にはならない。
これは──何か別の“意図”によって反応している。
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【SYSTEM】
未定義感情構造、読み取り中…
プレイヤー構成、初期化完了。
《次のプレイヤーを選択してください》
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画面には、まだ名前が表示されていない。
ただ、私の中に、ひとつの言葉だけが残っている。
「また、始まったのか」
(つづく)
※この連載は、完結済み作品『色喰らいから始める虹色の絆:魔王討伐伝の物語。佐藤魔王と高橋店長。ときどき山田』の外伝です。
本編はこちら → n7930kj