第3話:鈴の音が鳴るとき
『5行プロンプト』
ジャンル:現代×ミステリー
舞台:弁当屋さん
主人公:ごく普通の会社員
目的:ほか弁を買う/殺人事件
トーン:やや不穏、心理描写を重視
第3話:鈴の音が鳴るとき
私は猫だ。
白くてそこそこ可愛いと評判だし、ちゃんと鈴もつけている。鈴が鳴るたびに、人間は私を見て「あら、可愛い」とか言う。
おかげで、多少の変な行動をしても許されるのが強みだ。人間って、単純だ。
今日も、いつもの弁当屋の前で、私は座っている。
唐揚げのにおいが外まで漏れている。お昼を逃した会社員たちが、まるでゾンビのように引き寄せられてくるのは、見ていてなかなか面白い。
最初に来たのは、黒いバッグを持ったサラリーマン。くたびれていて、目が泳いでいた。
次に来たのは、おしぼりの配達員。白いバンから降りてきて、口笛を吹きながら店の裏に回った。
三人目は、スマホを見ながら入ってきた女の子。何かのゲームに夢中だったようで、私の存在には気づかなかった。残念。
最後は、観光客らしきおじいさん。入ってすぐ、間違えたとでも言うように出ていった。挨拶くらいしてもいいのに。
そして、彼が来た。
唐揚げ弁当ばかり買う会社員。毎週木曜に現れる。今日も例外ではなかった。
「いらっしゃいませ~♪」
あの店員の声は、やけに明るい。ちょっと高すぎる気もするけれど、彼は気にしていないらしい。
だが、今日は何かが違った。
彼がいつものように唐揚げ弁当を注文しようとしたとき、ふと動きが止まった。
目線の先には、裏返された札。
いつもは「唐揚げ弁当 480円」と書かれているはずなのに、今日は手書きの文字があった。
> 「この店の中に、“殺した人”がいる」
……やれやれ。また始まったか。
私は、首を少し振って、鈴を鳴らした。
人間にとってはただの“可愛い音”だけれど、私にとっては“合図”だ。
厨房の奥から、ごとりと音がした。
店員が、一瞬だけ表情をこわばらせたのを、彼は見逃さなかった。
まあ、彼にできることなんて、せいぜい弁当を買わずに帰ることくらいだろうけど。
それでも――たまには、そういう人間が、面白いのだ。
***
西伊豆の、弁当屋に、非常線が張られていた。
傀儡は、その弁当屋に、間違えて入った客である。
すべては、段取りどおりに、進んだ。
猫の鈴。あれに、カメラを仕掛けておいた。
リアルタイムで、私のもとに、情報が入ってくる。
私は、満足して、白いベンツに乗り込んだ。
軽やかに。軽やかに。その車は、海沿いを走っていく。
不穏な空気を、切り裂くように。