2 マリエールの願いと共に
マリエールはみんなに謝ったが、今日から貧民救済活動をすると言ってメイド長に叱られた。
2 マリエールの願いと共に
私にも様子が判る。マリエールはみんなに謝っている。
「みんな心配かけたわね。私みんなに迷惑かけたわ。とても反省しているわ。だから今日も貧民街に行くわ。」
少しの反省の色も見られない。だめだ、この感性にはついて行けない。メイド長は言う。
「いいですか。あなたが周りの人達にどれほど迷惑をかけたのか理解すべきです。あなたの護衛はあなたを担いでここまで来ました。今は反省室の中です。私達も必死に介護ました。ご家族の心配は並みではありません。あなたはご自分で考えているより遥かに人から愛されているのです。あなたの奔放さも底抜けの優しさも。あなたには敵も憎しむ人もいません。だからご自分の身体を大事にしてください。せめて夕食の時ご家族の了解を取って明日からにしてください。一番心配しているのはあなたに食物を渡した少女でしょう。明日彼女に心配ないよと言って上げてください。」
彼女の存在が虚ろいだ。彼女は蹲ってしまった。彼女の魂と私の魂がすり替わってしまった。どうしろと言うのだ。
「ベッドに潜り込むのよ。他に何か出来る。」
出来なくは無いと思うが、助言に従いベッドに行き頭から布団を被った。当然メイド長もついてくる。呆れた顔をしてメイド長は話す。
「お嬢様は幾つになっても変わらないですね。それがあなたの魅力なんでしょうけど。でも少女に貰ったからと言って食べてはいけませんよ。皆に迷惑かかるのですから。」
しばらくしてメイド長はマリエール布団を奪い取り、
「講義の時間ですよ。行きますよ。」
職業柄様々な国に行き様々な礼儀作法を身に付けている。私の取った作法は大きくは違ってないようだがここのものではないようだ。
今日の講師の女性にカーテシーをしたが、講師は怪訝そうだ。しくじったか。
「マリエール様、カーテシーは貴族間で目上の方に行うものですよ。マリエール様がされるとすればご両親や兄上姉上でしょうがそんな堅苦しい挨拶お求めならないと思いますよ。」
講義に入った。現代社会だ。通信も新聞もない世界で情報を知るのは難しい。国は独自のネットワークを作り情報とる。過去になった情報が貴族の知識になるのだ。世界地図を示しながら講師が説明する。
「我が国は大陸東部に位置し、現在周辺10ヶ国と経済圏を作っている。この大陸は牧羊地帯と農耕地帯が混在しといる。牧羊地帯の民は強く、牧羊地帯であるこの国の東の国はしばしばこの国を襲い暴虐の限りを働いていたが、300年前当時の魔法使いが東の国を滅ぼし人口も4分の1まで減らし牧羊を禁止して今はこの国の属国になっている。大陸の西に大きな牧羊国家があり幾つかの農耕国家を併合して拡大している。併合された農耕国家は納税することで存続を認められる。当然民の生活は苦しくなり反乱が起こる。農耕国家が制圧できなければ、牧羊国家が大虐殺をする。他の農耕国家から人当てる。その繰り返しだ。だからこの国はどこまでも拡大する。贖うことは不可能に近い。この地図は5年前のものだからもっと拡大しているのかも知れない。逆に魔法使いに殲滅されたかも知れない。」
まるでモンゴル帝国だ。チンギスハンが不老不死なら世界は彼のものだったろう。
午後は図書室に籠もった。
この世界はモンゴル帝国があった時代のヨーロッパのようだと思った。