三日月姫は、満ちる時を待っていた
粗暴で知られる北の王から、王家へ通告が来た。
──王女を側女に捧げよ。
強大な隣国。断れる術はない。
「姉様に嫁いでいただいたら良いわ」
星夜姫と呼ばれる美姫が、あっけらかんと口にして、神殿に会す一堂は皆、彼女の姉に目を向ける。
三日月姫。
先の王妃の子である第一王女は、星夜姫とは対照的に、三日月のように細く身窄らしい。
その呼び名は嘲りで。
離宮で過ごし、滅多に出て来ない。
長い髪で陰鬱に顔を隠した姫は、宮廷ではほぼ忘れ去られた存在だ。
「おお、さすがは星夜姫。良案にございます」
「左様、三日月姫は第一王女。先方も満足でしょう」
大臣達が声を揃える。
三日月姫の意見を聞こうという声など、どこにもない。
「うむ。ではこの件は解決として、今日もまた、王子を授かるよう皆で祈ろうぞ」
王の号令で、その場に集う全員が祭壇に膝を折る。
国にあるのは二人の王女。
世継ぎの王子を授かるべく神に祈るのは、定例の儀式だった。
「ああっ！」
突然、三日月姫から声が上がる。
「姫君、儀式を邪魔をするなど──」
苛立つように声をかけた家臣のひとりが、目を見開く。
「神様の、思し召しのようです……」
ポツリ、と、三日月姫から低い声がこぼれた。
そして確かめるように開けた彼女の胸が、貧乳どころか男のそれであることに、辺りは言葉を失った。
神の奇跡で、三日月姫が男子に変じた。
第一王女が第一王子になった。
北の王には、星夜姫が嫁がれるらしい。
それはそうだ。国待望の王子殿下を外には遣れぬ。
瞬く間に噂が広まり、国内は騒然となった。
突如として現れた少年。彼は王家の色である金色の瞳と髪を持ち、その記憶や知識からも三日月姫本人であると確認された。
離宮を引き払う準備をしながら、第一王子が年嵩の侍女に笑顔を向ける。
「どう明かすか困っていたから、ちょうど良かった。北の王に働きかけた甲斐もあったし」
「王子祈願は、現王妃様に御子が宿って欲しいというものだったと思いますが……」
「奴らにはアテが外れたことだろう。母上の無念を晴らす時が来た」
「陛下が、当時側室だった現王妃様に入れあげてなければ。殿下が隠されることもありませんでしたのに」
侍女が俯く。
「先に息子を生んだら、諸共に殺すという勢いだったそうだな」
「姫君なれば生き延びて、機を見ることも出来ようと仰せでした」
「うん。お陰でいろいろ備えることが出来た。忙しくなるぞ。王と王妃を排除して、玉座を手に入れる」
三日月は、満ちた。
お読みいただき有難うございました！
ああっ、もっと、文字数が欲しかった(;´∀｀)。上手く伝わりましたでしょうか？
こういう設定大好きです。
ジャンルに悩んでいるので、変更するかもしれません。その際にはよろしくお願いします。
そうそう、12月12日はオリオン座のベテルギウスが一時的に見えなくなるそうです。日本じゃ観測出来ないけど、すごい珍しいとのとこでした。冬は夜空が綺麗ですね(ꈍᴗꈍ)
なろラジ参加作品「雪山に、閉じ込められたから」(ラブコメ)、ご好評いただいております。
「文化祭後に、菊は咲かない」純文学月間ランクイン中です。有難うございます！！
他に異世界恋愛で「私の幼馴染は、５年後の未来から死に戻ったそうです」も1000文字です♪
【追記】2023.12.13.四月咲香月様から三日月姫のAIイラストいただきました。カッコイイ！
