共和国軍特殊迎撃部隊
「うわー、凄いですね。この中で生活までできるんですか?」
戦艦バルバビロン。
大戦以前より存在する古代遺物の一つと言われている。
「まぁな。水や食料は半年程度は補給なく活動できるぜ。」
自慢げに話すクローディアさん。
わたしはいま、共和国軍特殊迎撃部隊に所属し、戦艦バルバビロンに搭乗している。
あれから更に数時間後、軍からの直接命令として転属が指示された。
部隊長として、クローディアさん。更に軍本部から約100人ほど転属してきていた。
そして、戦艦バルバビロンに搭乗していた150人ほど。合わせて250人以上の部隊となっている。
「さて、まずはアンタ達の部屋を見つけなきゃね。いきなり100人も増えたんだ。部屋を用意するだけでも一苦労だよ。」
「すいません。急にこんなことになってしまって。」
「なぁに、遅かれ早かれこうなってたさ。あのお人形さんにはウチらも散々煮湯を飲まされてきたからねぇ。
あぁ、あとウチのことはディアって呼んでくれ。隊長とか艦長とか呼ばれるとむず痒いんだわ。」
身体をポリポリ掻きながら話すクローディアさん。
「わかりました。ディアさん。わたしは新兵だったので雑用でもなんでもします!」
「そいつは助かる。こっちも人手不足は否めなくてね。この艦はちょいと特殊でね。整備兵が無事だったのは唯一の救いかね。」
艦内は騒がしく人が右往左往していた。
「ディアさーん!この部品、後部デッキの方でいいんですかー?」
声を上げたのは艦で通信を担当している、ヴィエナさんだ。
「あぁ?そんなもんウチが分かるわけないだろ!フリーダに聞け!」
「フリーダさん、今、共和国の方たちの拠点で補給任務に当たってて不在なんですよー!」
特別任務に就くために共和国軍から、かなりの物資を提供するという。
食料より、水が貴重とされている現在。250人以上を養うのは容易なことではない。
補給部隊として特殊な機体が共和国防衛線に向かっていくのを見ていた。
「あの機体は何ですか?共和国でも帝国でも見ない型ですが。」
「あれはうちの開発担当が作った、特別機さ。基本的には物資の輸送やなにやらをやらせてる。本人曰く、そんなことに使うために作ったんじゃ無い!とか抜かしてるが、正直、使い道があまり無いんだわ。特殊な素材を使ってるせいでおいそれと戦場にだせやしない。」
ディアさんはやれやれと言った表情で首を振る。
「でも、凄いですね。軍学校時代に少し習いましたが大戦以前より存在してるとか。」
わたしは感嘆の言葉を述べる。
「あぁ、そいつは間違いじゃ無い。以前は海という水上で動いてらしいんだが、邪竜の呪いのせいでただの鉄屑になってたのをオヤジ殿が砂の上でも活動できるように設計し直したらしい。」
ディアさんのお父さん。
天才技工士、カドゥケレス。大戦後英雄となった人物である。四大英雄の1人にも数えられ、共和国のみならず、帝国への技術提供を惜しまなかったようだ。
「まぁ、正確にはウチの親ってわけじゃないんだ。孤児だったウチを引き取って、自分は研究室に篭りっぱなしだったクソ親父さ。」
呆れた口調で話すディア。
「そのおかげでこの船はまだ動いてるってことだ。デッキに上がればわかるだろうが、砲門やらなにやらがたくさんついてはいるが使えないのさ。それが、この船を運用する条件だったらしい。」
淡々と説明を続ける。
ふと、疑問に思った。
バルバビロンはPMCである。なぜ、今回は共和国の依頼を受けたのだろうか?
今の時代、金銭は通貨になり得ない。実際、共和国内では食事や娯楽などは配給制になっている。
新兵である、わたしも一般の方達より少し多く配給の切符をもらっているだけだ。
共和国は元は海に面した地域だったらしい。そのせいか、地下水を掘るにも塩水が出てくることが多く、水が貴重になってしまっている。一定の時期に雨が降ることがあり、それを蓄えているのが現状だ。
逆に帝国は豊富な資源を持っていると聞く。元々内陸に帝都を構えていたおかげで複数の井戸を掘り潤沢な食料事情だと言われている。
共和国よりも帝国につく方がPMCとしては利益になるのではないか?そう考えてしまった。
「あぁ、アンタ、なんで帝国につかずに共和国の味方をするか分からないんだろう。まぁ、オヤジ殿が口止めしてるってせいもあるが、同じ部隊になったんだ。少しは説明してやるよ。」
こちらの様子を悟ったのかディアさんが、少し詳しい説明をしてくれる。
「アンタも知ってるだろうが、オヤジ殿。天才と呼ばれた技工士は元は共和国の技術開発主任だったのさ。
バルバビロンを見つけたのは大体40年ほど前になる。自律思考AIが砂の中で船を動かそうと躍起になってるところを、当時の主任だったオヤジが見つけたことが発端だ。
オモチャを見つけるとイジらずにはいられない性分でね。貴重な資材を湯水の如く使って形にしたのさ。
だけども、すぐに共和国の上層部からの圧力がかかったらしく、物資提供の差し止めやなにやらあったらしい。
だから、オヤジはバルバビロンを特定の人物にしか動かせないように設計して今に至るって感じだよ。」
そうこうしていると、声がかかる。
「クローディア様。補給任務つつがなく終了致しました。
現在、広域レーダーによる索敵を行なっていますが、目標は見当たりません。すでに物資は搬入口に搬送済みでございます。」
声をかけてきたのは補給任務に出ていたフリーダさんだった。
「ご苦労さん。とりあえずこいつらに寝床を作ってやってくれ。」
「かしこまりました。3番倉庫に空きがまだあったはずです。補給品の中に寝具になるようなものもありましたので作業にかかりましょう。どなたか手伝っていただけますか?」
「あ、わたしが手伝います。もう何人か連れて行きますね。」
「ありがとうございます。それではディアさん、あとはおまかせを。」
そう言うと、踵を返しつかつかと進んでいく。
慌てて追いかける。意外とマイペースな人なんだなと思った。
バルバビロンのほぼ中心に位置し、すべての施設にアクセスできる管制室。
構造上、上部甲板には存在せず、艦の内部に設置されている。
「なにか変化はあったかい?フリーダからは異常はないと聞いてはいるが、アイツ結構適当だからな。」
管制室でレーダー類とにらめっこしている少女がそこには居た。
「ディアさん!ビックリさせないでくださいよ!
とりあえず、今は特に変化はないですね。例の機械人形も補足してますが動きはありません。」
驚きの声と共に情報が共有される。
ケラケラと笑うディア。それに少し怒ったように話す少女。
次の瞬間、レーダーから警告音が鳴り響く。
「レーダーに敵影を補足!例の機械人形に高速で近づいていきます!
このパターン、同系機と判断します!ピンをうちますか?」
「いや、ダメだ!相手もこっちを補足してはいるだろうがダミーに気づかれちまう。
まさか、人形が補給をするって言うのか?今までそんなことはなかったぞ!」
机をダンッと叩き悪態をつくディア。
「ダミーを起動。それと同時にステルスモードで潜航する!艦内に警報を発令!しばらく太陽は拝めないって伝えておきな!」
艦内に警報が響く。それと同時に艦が潜航を開始する。
「あらあら、問題があったみたいですね。とりあえずこちらを済ませてしまいましょう。」
落ち着いた雰囲気で荷解きをするフリーダ。
「そんなに冷静でいいんですか!?わたしたちも何かできることは?」
わたしは慌てて聞き返す。まさか敵襲なのだろうか?そうならばあの人形兵器が動いたと言うことになる。
あれが動かなくなってから既に20時間は経っている。最低でも3日は再起動に時間がかかると言っていたが、イレギュラーは常に想定しておくべきだ。
「慌てなくても大丈夫ですよ。潜航すると言っていたでしょう?いかにあの機械人形が優秀とは言え、地中までは捜索できないんですよ。これまでもそうやってきたんですから。」
落ち着いた表情で手を動かすフリーダ。
「バルバビロンより入電。すぐに行動を開始せよとのことです。どうします?」
「ハッ、予定よりも随分早いじゃないか。面倒くさいがこれもおまんまのためってね。アーセナルフォート起動!奴らの鼻先を掠めるよ!」
そう叫ぶのは褐色の肌に髪を一つにまとめた少女。
「駆動系に異常はないね?出力最大!突っ走るよ!」
4輪駆動の戦車に大きな砲門を積んだ外観。その巨躯が轟音を立てながら砂漠の大地を駆けていく。
月一の連載になりそうです。
遅筆で申し訳ありません。