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覚悟の決め方

わたしが目を覚ましたのは救護テントの中だった。

どうやら、わたしはあの戦場を生き抜いたらしい。


新兵が戦場で生きて帰ってくる確率は一桁台にまで下がっていると聞く。

運が良かったのだろう。それに援軍も来てくれた。


「おぅ。目が覚めたかい?」

声をかけてきたのは戦艦バルバビロンの艦長であるクローディアさんだ。


「はい。おかげさまで。あの場で生き残れたのは艦長さんのおかげです。」


戦艦バルバビロン

いわゆるPMCで、傭兵や物資の運搬、調達までこなす何でも屋ともいえる。


竜役大戦の後、この世界は地平線の向こうまで砂になった。

竜と人との戦争。人に勝ち目など最初からなきに等しいその戦いは、人類の勝利で終わる。

科学という名の武器を人類は大いにふるい竜を絶滅させるまでに至った。

しかし、最後の竜を倒したその時、竜は邪竜となり大地に呪いをかけたのだという。

作物は育たず、水は枯れ、木々は死にゆき、残ったのは広大な砂漠の大地。

それだけではなく邪竜の血は宙を舞い、ウィルスのように人間にも害を及ぼし始めた。

今の人口比率は8:2で女性が多く生まれてくる。

男児を産んだ母親は国で保護するほどの貴重な財産となっている。

これが邪竜の残した呪いなのだという。


邪竜は死んでもなお人類に厄災をもたらし、争いの火種になっている。

それが今の帝国と共和国の戦争である。

その呪いを解くために科学者達は邪竜の力を解明しようとした。

しかし、ここで相反する考えが溝を深めてしまった。

邪竜の力を人類の発展のために利用すべきと考えるもの。

邪竜の力は葬り去らねばならないも考えるもの。

この、両者の考え方が邪竜討伐という目的で一丸となった国を二分したのだ。


どちらも正しいのだろう。わたしにはそう思えた。

しかし、戦争は止められなかった。

今もなお、邪竜の死骸は両国の国境にあると言われている。それを奪い合っているのが現状だ。

始まりはほんの小さな事でも国というものが絡むと複雑になるものだと勝手に納得している。


「おーい、きいてんのかー?飯はいるかってきいてるんだが?」

クローディアさんが顔の前で手を振る。


「あ、すいません。ちょっと考え込んでしまって。ご飯、いただきます。」

少し焦ったように言葉を返した。

本当はご飯など喉を通るはずもない。目の前で戦友が死んだのだ。それどころか部隊の8割を失っている。

しかし、それでもご飯が食べられるのは軍学校での訓練のおかげなのだろう。食べれる時に食べる。

兵士は体が資本、食わねば力がでない。

教官の教えである。


「しかし、あのお人形さん。最後はやらかしてくれたな。ウチの兵士どももかなりやられたよ。」

食事を片手にクローディアさんが話し始めた。


「結局、あの後はどうなったんですか?わたし気を失ってしまって覚えていないんです。」


「あんた、あのお人形さんのことはどこまで知ってる?」


「帝国の新型兵器で自立思考型、いわゆるAIで動く対人兵器だと聞いています。人口の少なさは帝国も共和国も大差はありませんから。」


「まぁ、おおかたはそれであってるよ。でもな、自立思考型なんてもんじゃない。あれは人体をベースにして改造してるんだよ。兵士候補生の中から素養がないやつを機械の体にすげかえるのさ。頭の方は人間と変わらない思考をし、それを機械が並列処理化させてる。おぞましいったらありゃあしねぇ。」

クローディアさんは身震いしながら話を続けた


「最後に放たれた弾丸覚えてるか?あれはユニオンバレットって呼ばれる最近できた新型特殊弾だ。理屈はわからねぇが任意のタイミングで爆発させることができるリモコン式の爆弾みたいな弾だ。直径は約5cm程度。鈍色から虹色に変わる時になにかと反応して大爆発を引き起こす。殺傷能力は無いみたいだが爆発の範囲と威力が桁違いなんだよ。それをちっちぇえ弾にしちまったのさ。」


「そんな兵器もあるんですね。わたしは今日が初陣だったので何も知らずに」

少し肩を落としながら返事をしていると、クローディアさんが、肩に手を置きながら話してくれた。


「初陣で生き残ったのは幸運だ。他に死んでいった仲間達もいるだろう。だが、不運なのはあのお人形がそこにいたって事だ。最後はコアユニットのオーバーチャージによる殲滅行為だったしな。」


「コアユニット?」


「あぁ、あのお人形の内部にあるコアの事だ。経験上、あのお人形を行動不能にするのはそのコアを破壊するのが一番早い。だが、このコアがやつらの動力源らしくてな。半永久的に運動が可能で、飲まず食わずで24時間フルタイムで働く、勤勉なお人形さんってわけだ。大戦以前にあった核とかいう物質を使ってるとも、邪竜の一部を使ってるとも言われている。まぁ、とにかく、そこにはとんでもないエネルギーが蓄えられているってことで、それをオーバーフローさせて外部に放出、さっきのユニオンバレットの何倍もの破壊を可能とする。」


「でも、そんなことをしたらあの機械人形も壊れるのでは?」


「確かにな。普通なら原型を留めちゃいないだろう。だが、最近になってそんなことをした個体が原型を留めたまま活動しているって報告がちらほら入ってきている。実際、ウチらがやり合ったあの人形は原型をとどめたまま棒立ちしてたって偵察隊から連絡を受けている。」


「あれはまだ死んで無いと?」

思わず力が入ってしまった。あの機械人形に戦友を殺されたのだ。それがまだ生きている?

許せるはずもない。


「まぁ、落ち着きな。今は活動出来ないようだし、今までの報告例からも最低でも3日は動けないはずだ。あれからまだ半日と少ししかたってない。復讐できるチャンスはあるさ。」


クローディアさんが慰めてくれる。

復讐の機会があるならば必ずこの手で破壊する。


「そういえば、それだけ凄い爆発があったのに、わたしは擦り傷程度しか傷がないのですが」

ふと、自分の姿をみると多少の擦り傷や切り傷はあれども、深い傷は負っていない。


「あぁ、それな。塹壕に隠れてたおかげで砂に埋まるだけで済んだんだよ。ウチもあんたもな。その後、うちの兵士どもに救出されてバルバビロンでここまできたってわけさ。」

続けてクローディアさんから現状の説明を受けることになった。


「今日付けでPMCであるバルバビロン艦隊を共和国軍特殊迎撃部隊として迎えたい。これを受け、バルバビロン艦隊に対し全面的な協力を約束する。

また、これに先んじて部隊の編成そのものを貴殿らに一任するものとし、可及的速やかに報復行為を為されたし。

と、まぁ共和国のお偉いさんから要請がきてねぇ。ウチらはあくまでPMC。やるもやらないも自由なんだが、今回はウチらも被害がデカい。それに提示額もなかなかだしな。

そんなわけで、たった今からウチらは仲間ってわけさ。そこで一つ相談なんだが、あんた、ウチの部隊に入らないか?最前線での戦いにはなるだろうが、アレを生き残ったんだ、何かの素質はあるんだろうしな。」


クローディアさんが手を差し出しきた。

それを取ればわたしは最前線に立ち、またあの機械人形と戦うことになる。

わたしは軍学校でも成績が良かったわけでもなく、射撃も同期と比べれば見劣りするレベルだ。

最前線に立てば真っ先に死ぬ自信すらある。


でも、今日、生き残った。

仲間の8割を失い、その僅か2割の中にわたしはいる。

クローディアさんはわたしに素質があると言う。

ならば、それを引き出さなければ。死んでいった友の為にも。


「はい。ぜひ部隊へ入れさせて下さい。この力、存分に発揮したいと思います。」


わたしはクローディアさんの手を取り

共和国軍特殊迎撃部隊への編入が決まった。




「識別番号20211023よりHQへ。現在、当機はオーバーチャージによる過負荷により行動不能。自動修復では68時間を要すると判断。別の機体による修復作業を申請。

申請理由。当該地域に敵の大隊規模の拠点をレーダーにより補足。また、大型艦、識別名バルバビロンの出現も確認。再度の攻撃を受けた場合、敗北確率は80%を超えると推測。


申請の却下。不服として再度申請


却下。再度申請


却下。再度申請


条件付き許可を受諾。


条件の内容を確認。理解。行動を開始する。」

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