試練
少年ヴィキャスにとって完成は破壊を意味していた。
自分の作品を最高の状態に仕上げた状態からの激しい衝動。
彼は天才で、常に最高傑作を更新し続ける。それが、これ以上最高の傑作を更新できないのではと言う彫刻家としてのプライド、不安が衝動を駆り立てるモノの正体だ。
しかし、それは恥ずべきことでは無く一人の人間として何れは通る道と幼き頃に自覚したこともアリ、彼の中では破壊とのツーショットで美学と感じる様になる。
彼の工房が散らかっているのは片付けを怠った結果では無い。これまで創作してきた作品のなれの果てである。いわば展覧所でもあった。
それを知っている先生は彼を咎める事は無く、逆にその伸びしろに誰よりも期待していた。あの工房そのものが一つの作品と言ってもいいとも思っている。
彼女はそれを望んだ。他の作品の様に、残酷に破壊されえる事を。
手に握りしめた金槌を振り下ろされる事を望んだ。
しかしそれは叶わぬ願いだった。彼の人としての領域が拒絶する。
ヴィキャスはまだ殻の中に閉じこもった雛だ。人と言う卵の中に押し込まれたままの。
彼の彫刻家としてのスキルは天賦の才。それは次代の鬼才であった先生ヴィエトワールさえ凌駕する。ただ人としての領域が先生を越えられない足枷となっていた。
粘土に枝や砂利を混ぜていた幼き頃の方が、まだ良いと思うほどに俗物に浸かってしまっていた。
そんな彼の成長を促進させる試練として、この町は人間現象を起こした。
「彫刻発展」vie・rouge街 次代の主に対する試練は、この街を背負う資格を持ったモノだけに与えられる資格でもある。見事乗り越えた暁には、これまでに見えてこなかった視点や感性が心を成長させるだろう。
少年は人として在り続けるのか。それとも彫刻家として在り続けるのか。
この街から問われている。