彼女
スピリチュアル。
意味は目に見えない世界の事を指す。
神様や精霊。精神や魂の事を言うらしい。
そして、その形の無い世界を投影するのが俺の役割。彫刻家だ。
名前はvie・casse。性別は男。歳は19。
好きな食べ物はチーズ。嫌いな食べ物はトマト、その他大勢。
偏食で気難しく。少しおっちょこちょい。
作品にかける情熱は誰よりも。
女の子にかけるアプローチも誰よりも。
彫刻は小さい頃から。
初めはただの粘土遊びから。
木の枝や葉っぱをぶっ刺したこともアリ(今はしない)。
自分の世界を投影する事はしない(本人談)
やりたいように。したいように。創る。
未だ彼女はいない。
だからって。
理想の女性を掘るなんて(先生談)(愉悦)
彫刻家の朝は遅い。やりたいときに。やる。
昼を過ぎ、夕方。少年ヴィキャスにとっての朝は12時間程ズレていた。
冷たい風と月明かりが射し込む工房。電気は無い。昔、ケーブルでコケて以降、点かなくなった。めんどうくさくて替える気も起きない。
めんどうくさがりで。片付けが苦手。
だから工房は滑石などの彫刻用の石が散乱していた。
先生はこの工房を見ても文句は言わない。
「散らかっているとは思わない。これが君の作品(個性)だ」
らしい。先生はよく理解してるよ。俺の事。怖いくらいに(いつ見られた?)。
工房は小さい頃から与えられ、どこに何があるかも目を瞑っても分かる。
染み付いた感覚だけで彫刻を行う。
明かりなど必要なかった。
そして、今日も。ヴィキャスは創作に打ち解ける……はずだった。
「俺の独房に何の用だ? 生憎。俺の作品は値が付けられないぜ。一級品だからな」
「……」
「まあ、俺も鬼じゃない。盗みを働くには。何か訳があるんだろう? 聞かせてくれよ。サツが来るまでよぉ」
話し合い。大切。
陰に隠れた泥棒に気付いたのは、直感。
机に置いてあるハンマーを握りしめ。出かたを伺う。
泥棒は歩を進め。近づいてきた。
「……!」
それは息を飲み込む光景だった。
月明かりが。それを照らす。
着飾った服は白く。整った髪型も白く。艶の無い肌も瞳も白く。
欠けた腕。ヒビの入った唇。粉塵が積もった鎖骨。
そして何よりも。ヴィキャスの心を射止める「美」。
それは、ヴィキャスが作りかけた作品。
理想の女性像。
「う、動いている⁉ 見つめている⁉ 先生。大変だ。彼女が出来ました!」