表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたの自由を許せない。  作者: ちわみろく
6/62

スマホの中

 仕事から帰ってきた克行は、リビングに誰もいないところを見て、ため息をついた。

「ただいま。・・・お母さん、いないの?」

 帰宅してそうそうだが、早速スマホの画面を見る。

 廊下をパタパタと歩く足音がして、やがてリビングのドアが開く。優子が顔を見せた。

「おかえりなさい。夕食ね、すぐ温めるわね。」

「温めるって、子供たちも、お母さんも、もう済んでるの?」

 寝室で着替えを済ませて戻ってきた克行は上着にしている裏起毛のパーカのポケットにスマホをいれたままソファに座る。

「ええ。・・・夏樹が、えっと・・・なんだったかしら、えっとオンラインなんとか?とかが七時から始まるからとかなんとかで、夕食の時間を早めてほしいって言うのよ。ついでだからわたしも済ませちゃったの。早めに食べたほうが、身体にもいいしね。」

「・・・だーれも俺のこと待っててくれないんだ。」

 恨みがましくそう言って、拗ねたように口をとがらせる夫は、ソファでスマホをいじり始めた。

「何時に帰ってくるかもわからないのに待てないわよ。たまたま今日は早かったみたいだけど。それに、このごろは克行さんだってそうやってスマホいじってばかりじゃないの。子供のこと言えないわよ。」

「折角定時に上がってきたのに。」

「予め連絡して頂戴。そしたらわたしは待ってたわ。」

 言いながら、温めた肉じゃがと味噌汁に白いご飯を食卓に乗せる。冷蔵庫からサラダをだしてドレッシングをかけた。箸置きに端を置いて、淹れたての緑茶をその脇に置く。夫は食事時は緑茶しか飲まない。大豆とひじきの煮物を後から追加する。

「用意できましたよ、どうぞ。」

いい年をして拗ねるとか呆れる。子供でもあるまいに。自分が連絡を怠っただけの話だ。帰るコールの一つもしてくれれば、こちらだって考える。思ったままを当たり前に述べたが、夫はそれにも不服なのかそれ以上何も言わなくなった。

 一人で食事をさせるのは気の毒だと思って、テーブルの向かい側に座ってお茶を飲んでいるが、気まずいことこの上なかった。しかも、夫はテーブルの上にスマホを置いて、それを操作しながら食べている。

「・・・お願いだから、子供の前でだけはそれ止めてね。」

 優子は自分だから許してやるが、他の家族の前でそれをやったら許さない。

 そういった妻の方を、何故だか克行は睨みつけた。

 何を怒っているのか知らないが相手にしていられない、バカバカしい。優子はまっとうなことを言っただけだ。



 優子が子供の異変に気がついたのは、長男がリビングに余り居座らなくなったことからだった。長女は自室にこもって勉強する時間が増えてきていたので、最初は中々わからなかったけれど、次第にわかってきた。子供たちはリビングにいたがらない。

「年齢的にも、反抗期か・・・」

 そう思っていたし、おそらくは克行もそう思っていたのではないか。

 いや、もしかしたら夫は子供の異変にも気付いていないのかも知れない。克行の身体は家庭に有っても、その意識はいつもスマホの中。そこで通じている相手だったのだから。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ