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あなたの自由を許せない。  作者: ちわみろく
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仕返し

「あなたは、仕返しをされただけでしょう。」

 出来るだけ冷ややかに言った。

「仕返しって・・・。」

「あなたのせいでわたしは夫を失い、家庭を壊され、安定した生活を奪われた。それなのにあなただけ以前と同じように平穏に暮らしていくなんて、許せるわけがないわよね?」

 この女せいで、優子は全てを失った。夫も、生活も。家族も壊れた。女としてのプライドも妻としての誇りも、長い間尽くしてきたという矜持すらも。

「だからっ・・・!慰謝料ならっ・・・お金なら払うって・・・!!」

「お金?お金で取り戻せると思ってるの?何十億円積まれたら取り戻せる?夫も、あなたのせいで壊れたわたしの心も身体も、病んでしまったわたしの子どもたちの心も、どれだけの時間と療養とお金があれば癒せるというの?家族の絆も信頼も愛情も、どれもこれも、お金で取り戻せるものなのかしら?」

「だからって、何も知らないわたしの子供や夫に知らせるなんて・・・ひどい。彼らは何も知らないのに!!」

「それがわたしのせいだとでも言うのですか?」

「そうよ!あなたさえ、黙っていてくれれば!」

「わたしとわたしの子供だけが苦しみ続ければいいと?あなたがしでかしたことなのに、その報いを受けるのは何もしていない、何の非もないわたし達だというの?わたしたちが一体あなたにどんなひどいことをしたって言うんでしょうか。こんなことをされるような、どんなひどいことを?

「・・・。」

「すべてあなたのせいでしょ?あなたがいけないのよね?あなたが巻いた種よ。自分で刈り取ったら?刈り取れるものなら。」

「ひどいっ・・・!!」

「あなたのしたことは酷くないとでも?少なくともあなたと違ってわたしは犯罪者ではないわ。あなたは立派な犯罪者だけど。ここは日本で日本は法治国家よね。不倫は法律違反よ。刑事事件だったら貴方は容疑者ですからね。わたしはあなたと主人を訴えることが出来るけれど、あなたには何も出来ないわよね。だってわたしは罪を犯していない。あなたは犯しているけれど。」

「は、犯罪者だなんて、大げさなこと言わないで。そんな事言うのなら、あなただって勝手に秘密をばらしたんだから名誉毀損じゃない。」

「関係者に事情を話しただけよ。あなたの家族は関係者よね。それとも無関係とでも言うの?公に知らせたわけじゃないわ。侮辱罪も名誉毀損も適用外だわね。」

「ひどい、ひどい、どうして。他にも不倫なんかしてる人たくさんいるじゃない。どうしてわたしばかりがこんな目に。」

 鈴子は長いため息をついた。

 夫と同じ台詞だ。他にもやっている人がいる。どこにでもある話。さすが家族を裏切って不倫するような輩は言うことも同じなのだろう。

「ひどいのはどっちよ。他に誠実な夫も妻もたくさんいるじゃない。わたしもその一人だったのに、どうしてわたしばかりがこんな目にあっているの?」

 同じ言い方をすればわかるだろうか。いや、わからないだろう。わかるくらいなら、こんな事態になっていない。

「あなたがちゃんとあの人をつなぎとめておけないからいけないのよ!!自分に魅力がないのを、人のせいにして!」

「じゃあ、あなたのご主人も魅力がないのがいけないのね。ご主人があなたをちゃんとつなぎとめておけないのに、人のせいにしたと言うわけね。文句ならご主人に言ったらどう?不倫したのはあなたのせいよって。悪いのはわたしじゃなくて、あなたなのよって。」

「・・・っ。」

 ブランド物で固めた服装は、一見してそれとわからないくらいに地味に見えて黒一色でも豪華だ。裕福な家庭で育ったお嬢様がそのまま稼ぎのいい裕福な夫のところへ嫁ぎ、リッチな人妻となった。生まれながらに全てに恵まれた彼女にとっては、不倫することなど大したことではなかったのかも知れない。面倒なことは全て、お金が解決してきてくれたのだろう。


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