義両親の言い分
夫の両親は離婚に反対し、何度も自宅に押しかけてきては優子を説得しようと執拗だった。一度は義兄までもが説得のために呼び出され、自宅へやってきた。
言う言葉は、元夫、そして不倫相手と同じだ。
不倫や浮気くらいよく有ることだと。大げさにするなと。
目を瞑れと。反省しているのだから許してやれと。
一度は離婚を了承した元夫も、本音では離婚したくないので何度追い返しても、また義両親を自宅に入れてしまう。たまったものではなかった。
優子は我慢できず、弁護士に頼んで内容証明を夫の実家へ送ってもらった。そして、もう一度「調停も裁判もするつもりだ。」と、意思表示をしてもらったのだ。
そこまでしてようやく、義両親も協議離婚に同意してくれた。
だが、そうなれば今度は財産分与や養育費にしつこく難癖を付けてくる。やれそんなに払えないだの、一括は無理だのごねてきた。
優子は出来ないことをさせようとは思っていなかった。元夫の財産がどの程度かなどとっくに把握している。彼が会社で積み立てていた財形貯蓄と、住んでいた自宅を売りに出した場合の金額を合算し、その金額をおおよそで見積もって請求していたので、支払えないはずはないのだ。出来ないなら慰謝料も請求する、と弁護士に通達してもらい、ようやく首を縦に振らせた。
元夫もたいがいだが、元義両親もたいがいである。自分たちの不始末の責任すらとれないとは情けない。
そして、元夫と子供たちの面会については基本的に関知しない。
夏樹も春人も赤ん坊ではないし幼児でもないのだ。自分の意志が有る。それに委ねようと言った。
すると、夫の親はそれはおかしいと言い出したのだ。
「孫なんだから、会う権利はあるでしょ!ちゃんと連れていらっしゃい。」
「たとえ親は離婚しても、父親だし、祖父母であることに変わりはないんだぞ。」
義両親はそう言って優子を責め立てた。
「だから、会いたいならご自分たちで子供たちに直接連絡を取って会って下さい。携帯の番号なら克行さんが知ってますから聞いてみては?二人共小さい子供じゃないんです。わたしも会うなと言うつもりもない。夏樹と春人がおじいちゃんおばあちゃんと会いたい、と思えば会うんじゃないですか?」
「そんなこと言って、絶対に会っちゃ駄目とか吹き込むつもりなんでしょ!なんて性悪な人なの。」
義母の被害妄想には、反論する気力すらもない。
「そう思うなら諦めて下さい。自分から会おうとしないのに、わたしが無理やり会わせるわけには行かないですよ。そもそもわたしの言うことを聞くかどうか。年齢を考えて下さい、小さな子供じゃないんですって何回お伝えしたら理解できるんでしょうか?父親の不倫の意味がちゃんとわかる年齢ですよ?」
不倫のことを引き合いに出せば、義両親も何も言い返せない。
「・・・そうやって何もかもうちから奪っていくのね。酷い嫁だわ。」
「原因を作ったのは息子さんですけどね。」
「・・・優子さんがこんな気の強い女性だったなんて。」
優子は、義母の言葉を鼻で笑った。
もうすぐ義両親ではなくなるのだ。気を遣う必要もない。今まで大人しくしていたのは、あくまで夫をたてるいい嫁のふりをしていたからで本性ではない。
いや、仮にもともとが気弱な女だったとしても、こんな目に遭わされたのだ。強くならざるを得ないではないか。
家庭を守れない夫に代わって、優子が家族を守っているのだ。弱くては守れない。
義両親は優子を甘く見ていたのだ。
いつも大人しく従順な嫁だった。嫌味を言われてもいびられても、口答え一つしたことがない。それは、同居していないからこそ、出来た芸当だったけれど。




