仲立ち
「そんな・・・!お前が仲を取り持ってくれないのか!?」
しおらしかった態度が嘘のように、夫は声を荒げた。
それに対しても、妻は冷ややかだった。
「子供を傷つけたのはあなたです。癒やすのもあなた自身でどうぞ。」
「散々俺の悪口を言ってきたんだろ。だから子供たちは俺のことあんなに嫌ってるんだ。お前がどうにかしてくれないで、どうやって面会にこぎつけるんだよ。」
「じゃあ会わなければ?会えないなら養育費を払わないって言うのなら、裁判にしてでも支払わせるけど。」
「優子・・・!」
「ここでわたしが子供たちに『お父さんに会ってやって』なんて言おうものなら、もっとあなたは嫌われると思うけどね。あなたが私にそう命じたんだってすぐに察するわよ。あなたは子供を舐め過ぎてるわ。いつまでも小さな子じゃないのよ。」
「・・・そこは、こう、お前がうまく言ってさぁ。」
克行は急に猫なで声を出す。
まるで胡麻をするかのような愛想笑いを浮かべた夫が、酷く卑しく見えた。
脅してみたりすかしてみたり下手に出たり、忙しいことだ。
正直に言って、気持ちが悪い。
「なんでわたしがそこまでしてやらなくちゃいけないの?甘ったれるのもいい加減にしてくれる?やっぱり慰謝料も請求したほうがいいみたいね?」
冷たい声で厳しく言うと、克行はうなだれた。
ああ、一刻も早く離婚したい。自分の夫がこんなにもみっともない男だったなんて、恥ずかしい。こんな父親を選んでしまって、子供たちに申し訳ない。
夫の態度には失望するばかりだ。
徹頭徹尾変わらない態度の妻に、克行は空恐ろしさを感じている。
長い年月一緒に暮らしているのにこんなにも冷たい女だったなんて知らなかった。悪いことをしたのは確かに自分だ。自業自得というのもわかる。だから、こんなにも反省しているではないか。
妻の実家を辞してからはずっと妻の言う通りにしている。協議にだって協力している。離婚も承諾した。
子供のためだと言うのはわかる。夏樹も春人も大事な子供だ。傷つけたくて傷つけたわけじゃない。だから養育費も払うと言っているのだ。世の中には、別居していてもうまくやる親子だっている。離婚した後も、親子の関係をうまく続けていきたいと思って何が悪い。
その大事な子供だって、克行のおかげで授かったのではないか。
「なんでそんな酷いこと言うんだよ。夏樹も春人も俺がいたから生まれたんだぜ。自由に会う権利くらいあるあろうが。だいたい、不倫ぐらいどこにでも転がってることじゃないか。芸能人だってしょっちゅう報道されてる。誰でもやってることだろ。お前が大げさにしすぎなんだよ。裁判とかいい出すし、信じられないよ。」
それまで平静だった妻の顔が瞬時に変わった。
「誰でもって誰よ!?裁判になる事例があるのは不倫が犯罪だってことでしょ!?あなたは自分のしでかしたことがまだわからないの!?不倫が原因で自殺する人だってたくさんいるのよ!信じられないのはこっちの台詞。あなたのやり口はわかってるのよ。ちょっとしばらく大人しくしてればそのうち許してもらえるだろうとか、反省したふりをしてればそのうちなんとかなるとかそういうことでしょ。」
般若の形相とはこのことだろうか。
妻の怒りの表情、そして、その激しい口調にも驚愕したのか、克行が絶句する。




