来ない迎えを待つ
毎年恒例の同窓会は、いつも年末前の11月に行われている。夫は地元出身なので毎年出席していた。彼の親しい同窓生が戻ってきてくれて、皆で集まる。そんな同窓会だ。克行の親しい友人ばかりなので、クラスメート全員が集まるわけではないのだと、話してくれた。もちろん、当時の教師が来るわけでもない。夫の同窓生である友人の何人かが、同窓会の後に自宅へ押しかけてきたことも有るから、優子も顔は知っている。
優子は隣県から結婚のために引っ越したきたので、そういう楽しみが有る夫が羨ましかった。自分も同窓会に出たいと頼んだことも有るが、優子の地元に戻っての同窓会となると泊まりか深夜遅く帰宅することになるから、行きたくても行けなかった。
「俺も同窓会は楽しみだから、行くこと事態には反対しないけど、その間、夏樹と春人はどうするんだよ。早く帰れないなら行っちゃ駄目でしょ。」
「一日くらい、克行さんが世話してくれてもいいでしょ?」
「無理無理。おむつも換えられない俺一人じゃ無理だよ。困る。」
「じゃああなたのご両親にお願いしたらいいじゃない。」
夫の両親は当時共に現役で会社員をしていた。同じ市内に住んでいて、車で20分ほどの場所に住んでいる。今は二人の子供はどちらも独立し、二人きりで生活している。
「嫁が同窓会に出たいから孫の世話を頼むなんておかしいじゃん。病院とか仕事とかなら仕方ないけど、そんなの頼めないよ。」
「なんで?普段から孫の顔を見せに行ってるんだから、ちょっとくらい」
「俺の親だって働いてるんだぜ?専業主婦の嫁が同窓会に出たいからって、親が仕事休んで孫の世話任せるなんて有り得ないんじゃない?」
「専業主婦になったのは、あなたが仕事を辞めろって言ったからよね?出産と育児休暇の後に復帰することだって出来たのに。」
「だって可哀想じゃないか。やっぱ家に帰ってきた時、お母さんが家にいなくちゃな。なぁ夏樹。」
そう言ってまだ5歳だった娘を膝に乗せ、同意を求めていた。
一向に止まない携帯電話の振動に、自治会館を飛び出した優子は焦って応じた。電話をかけてきているのは娘の夏樹だ。もう7回目だった。最初の着信から1時間近く経っている。
「もしもし、夏樹?どうしたの?」
「お父さん迎えに来てくれてないよ!家に電話しても誰も出ない。春人は家電には絶対出ないし、なんでお父さん迎えにきてくれないの!?」
長女の声は電話越しでもわかるくらい、半べそだった。
「お父さん行ってないの!?わかった、とにかく今からお母さんそこへ向かうから待ってて。」
「早くね!塾の先生、閉められなくて困ってる。」
時計を見ればもう夜の9時半だ。
中には深夜近くまで開いている塾もあるが、夏樹が通う塾は基本的に9時までの授業である。
急いで娘の通う学習塾へ迎えに行き、塾長へ頭を下げて帰宅した。
しかし、夫はまだ帰宅していなかった。
家にいたのは、オンラインゲームをやっている春人一人だ。
遅い夕食兼夜食を二人に食べさせ、入浴を済ませる。
その間、優子は何度も夫の携帯に電話し、ラインを送り、メールも出したが一切反応がない。
夫の会社は同じ市内の駅前にある建設会社の出張事務所だ。
長女と長男が寝静まった後、優子はもう一度車を出して、夫の会社近くまで出かけた。