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あなたの自由を許せない。  作者: ちわみろく
17/62

真昼の日曜日

 夏休みも近い暑い日曜日の昼前に、克行は自宅に帰ってきた。

 朝帰りという後ろめたさもあって、恐る恐る玄関の鍵を開ける。誰も在宅していないことに気が付き、ほっと息をついた。

 帰宅するだけでも汗ばむような日だったので、もう一度シャワーを浴びて着替える。余りにも暑くて、冷蔵庫の扉を開いた。

「・・・ビールでもあればな。あ、あった。」

 キンキンに冷えた缶ビールを冷蔵室の奥に見つけ、手を伸ばす。

「へえ、珍しいなぁ。ラッキー。」

 克行の家の冷蔵庫に入っているアルコール類と言えば料理酒くらいだった。優子はほとんど酒を飲まないし、克行も家では余り飲まないからだ。

「貰い物かな。」

 そういえばお中元のシーズンだ。今までビールなど貰ったことはないが、どこかから送られてきたのだろうか。お歳暮やお中元のやり取りなどは全て妻に任せているので誰から貰ったのかもわからないが、冷蔵庫に入っているということは飲んでもいいということだろう。

 リビングで缶ビール片手にテレビを眺めているうちに、克行はいつしかソファで眠ってしまった。昨夜も遅かったので、寝不足なのだ。今頃は久乃も自宅で船を漕いでいるに違いない。スマホには彼女が無事に帰宅した連絡だけが来ていた。



 市立体育館は、そうでなくても暑いのに、試合の熱気で一層蒸し暑くなっていた。扇子で顔を扇ぎながら、優子は客席から身を乗り出して試合の成り行きを見守っていた。

 4ピリオドの残り30秒、ファールからのフリースローで息子の春人がライン上に立つ。ここでシュートが入れば同点、という大事な場面だった。大きなプレッシャーのかかる瞬間を、保護者もチームメイトも、固唾を呑んで見守る。

 傍らの夏樹も一緒に応援に来てくれていた。彼女も緊迫した雰囲気に表情が硬い。

 そして、一本目のシュートが綺麗に入った。客席とベンチから拍手が起こる。二本目を打つときには、春人の目線がゴール下の仲間へ合図していた。

 投げたボールがゴールの端に当たって跳ね返ると、飛び出したチームメイトがそのリバウンドを取る。相手チームよりも早い。そして、春人にパスが通ると、強引なくらいにゴール下へ身体をねじ込んでダンクシュートが決まった。

 両手を上げて喜ぶ優子と夏樹は思わず歓声を上げる。ベンチも盛り上がって、顧問の先生の声が響いた。

 得点した春人はシュートが決まった喜びに浸る間も無く、踵を返して守備へ走った。残り時間はわずかとは言え、点差が僅かなのだ、取り返される可能性は充分に有る。

 彼の同級生の外谷が相手選手に当たってファールを貰った。彼は5つ目のファールなのでこれで退場になってしまう。入れ替わりに田部井が入ってきた。

 あと数秒守りきればいい。その数秒が、とても長く感じた。それでも、彼らが体を張ってその時間守り続け、試合終了のブザーが鳴る。

「やったぁぁ!!勝った!!勝ったわ!春人のチームが優勝!」

「やったね!凄いじゃん春人!」

 わずかワンゴール差という僅差ではあったが、春人たちは勝った。同じ客席にいた他の保護者たちとも喜びを分かち合い、拍手する。

 勝利に沸いた選手達が、やがて試合終了の整列へ行くのが見えた。相手チームの選手の何人かが、悔し泣きしているのが見え、少しだけ苦笑いが出てしまうが、春人のチームの子たちも嬉し泣きしていた。

 とてもいい試合だった。中学最後の大会で、こんなにも頑張っていい試合が出来たのは本当に幸運だったと思う。

 選手たちが客席のほうへ向かって手を振って合図した。

 優子も夏樹も、他の保護者たちも拍手で迎える。

「ありがとうございました!」

 整列して挨拶をして見せてくれた春人たちの顔は、滝のような汗と、晴れ晴れした笑顔でいっぱいだった。



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