互いの義両親
彼女とは、余り出回っていないメッセージアプリで連絡を取り合う。探せばいくらでもあるのだ。アイコンも隠してあるので、簡単には見つからないだろう。仮に見られたとして、スマホのロックは簡単に解けないはずだ。
昨日はとても燃え上がった夜だった。久乃はとても乱れていて素敵だった。克行の胸にしがみついて、
「明日なんか来なければいいのに。」
と呟いた。
嬉しくて思わず抱きしめた。
写真を撮ってもいいかと尋ねると、絶対に誰にも見せないなら、という条件のもと、撮影を許可してくれた。
素肌をシーツで隠したあられもない姿は、自分だけのものだと思うと一層愛おしい。
「主人にも写真なんか撮らせたことないんだからね。絶対に秘密にしてね。」
「誰にも見せないよ。勿体無い。俺だけが知ってる姿なんだから。・・・宝物でお守りになる。」
窓の外の夜景をバックに、二人で肩を寄せてシーツに包まっている姿を自撮りした。いかにも、禁断の恋に悩み苦しむ恋人同士のようだ。
克行は、それに酔っていた。おそらくは、久乃も、きっと。
年始には双方の親のところへ年始の挨拶へ子供を連れて出向く。K市の優子の親のところへ行くと、孫会いたさに歓迎の準備をして待っていてくれた。おかげで優子はおせちも雑煮も作らなくて済む。
両親はめったに来ない孫と娘夫婦を歓待してくれた。
「今年は春人くんも受験になるな。部活も最後の大会になるだろ?どうだ、勝てそうかい?」
「新人戦では二回戦負けだったけど、今度の大会はせめてベスト4には入ろうと思って頑張ってます。いいセン行けそうなんですよ。」
「そうかそうか。そりゃ楽しみだな。たくさんシュート入れてきなさい。本数に応じてお小遣いを出そう。フリースローなら千円、スリーポイントなら三千円だ。スコア表しっかりつけなさいよ。」
「マジですか!?俺、超頑張る。」
お屠蘇を飲んでいい感じに酔っ払った優子の父母が、可愛くてたまらない孫に話しかける。
「夏樹ちゃんは高校生活どう?楽しんでる?」
「結構楽しいです。まだあんまり友達いないけど、嫌なやつもいないんで気楽に登校できるし。」
優子の母親も孫娘が可愛いのだろう。何しろ、優子は一人娘なのだ。嫁に行くために家を出る時も、親二人を置いていくような気がしてちょっと気が引けたけれど、両親はそんなこと気にするなと行って送り出してくれた。他には兄弟がいないので、当然ながら夏樹と春人だけが大事な孫である。
そして、優子の父親は若い。優子の両親はいわゆる年の差婚で、母親よりも父親のほうが一回り年下なのだ。そのせいで年齢が近いためか、夫の克行とも割と距離が近かった。優子が夫と子供を連れて実家に帰ってくれば、一緒にビールを飲んで楽しそうにプロ野球の話やJリーグの話に花を咲かせている。
「お父さん、春人を甘やかさないで。部活もいいけど三年生になったら受験なんだから、成績の方も重要よ。」
孫を甘やかす父親に釘を刺す意味で、優子が言うと、
「成績を上げてから小遣い交渉をするべきだろう、春人。」
同調する夫。
しかし、春人はそれには返事もせず、祖父と話を続けていた。
「まあいいじゃない。お父さんも、そこまでお金があるわけじゃないんだから。本当にシュートの数だけお金上げるわけないわよ。」
祖母がそう付け足すと、途端に春人はうなだれてしまった。
そんな長男を見て、優子と夏樹は苦笑する。
「ちぇー・・・」
同じ市内に住んででいる夫の両親は近いこともあって、年始の挨拶が後回しになってしまった。それでも三が日のうちには訪ねるつもりだったのだ。
だが、春人や夏樹が友人と初詣に行く約束を優先し、夫が例の同窓会へ顔を出すと言うので、成人の日になってしまった。
「優子さんのご実家には早々と行ってきたのでしょう?あちらを優先なのかしら?」
「いえ、決してそんなことはないです。」
義母の嫌味に冷や汗をかく嫁だったが、克行は何も言わない。
夫は優子が義母に言いたいことを言われていても、これといって何も言ってくれなかった。結構腹の立つことを言われているが、同居しているわけでもないので、我慢している。