行き先は
日曜日の試合の後、春人とファーストフードで夕飯を食べた。
バーガーセットとシェイクを頼んで席取りをする息子に、母がご注文の品を持って来る。
「・・・母さんは食わねぇの?」
「コーヒーだけでいいわ。今食欲無いの。」
「なんか、痩せたんじゃねぇ?」
「あら、そうかしら?ダイエット成功したかしら?」
母親がダイエットしていたなんて初耳だ。
眉根を寄せて優子を見ていた彼は、やがてテーブルの上のバーガーセットに視線を落とした。
何かを言いたそうで、言いたくなくなさそうな息子。
反抗期もあって、母親には素直になれないかもしれない。でも、夫の克行が無関心な以上、放っておくわけには行かない。
「この頃春人はお父さんを避けてるわよね?喧嘩でもしたの?お母さんの知らないところで何かあった?」
「・・・別に。」
やっぱり、と思って苦笑いする。
しつこく聞いて怒らせるのも厄介だ。優子は考えあぐねて、結局黙ってしまった。
「そもそも喧嘩するほど顔合わせてもいないし。」
鼻を鳴らしてそう言う息子は、怒っていると言うよりは、呆れているという感じだった。
「そうね。それもそうか。」
「そんなことよりさ、俺、母さんに頼みが有るんだけど。」
「あらなあに?」
「じいちゃんとばあちゃんとこ行きたいんだ。」
長男が言い出したのは、母親の予想とは違っていた。
「え、急にどうしたの?」
「しばらく行ってないじゃん。K市のじいちゃんとこ。久しぶりに会いたいな。」
K市は、優子の出身地だ。優子の両親が済む街である。
盆暮れ正月くらいしか顔を出していないのだが、何故急にそんなことを言い出したのだろう。
「一人で会いに行ったら小遣いくれるって言ってたじゃん。」
「それは小学生の頃の話でしょ。どうして?」
彼はバーガーの包み紙をくしゃっと丸めると軽く鼻の下を掻いた。
「いや、あのさ。じつは・・・。K市ってさ、県立高専あんじゃん。ちょっと興味出てきて。それで、じいちゃんたちの顔を見がてら見学なんか出来たら。」
春人の言い出したことに、びっくりしてしまった。
いままで進路の話など自分からしたことなど無かった息子が、進学先の話をするなんて。
確かに、中学生の進路先は高校だけではない。
母としては、普通高校の入学を期待していたが、それは置いといて。息子が自分から言い出してくれたことが嬉しいのだ。
定期テストの結果を見て、自分にも出来るという自信が出てきたのかも知れない。
ただ、自宅から通うには難しい。交通の便が悪いので、電車とバスを使っても二時間以上はかかってしまう。
「そっか。じゃあ、ちょっと相談してみようね。」
自宅に戻ってから、長女の夏樹に春人の話をした。
彼が自分の進路に前向きな姿勢を見せてくれたことが嬉しかったので、つい誰かに言いたくて娘に伝えてしまった。
「あ、春人にナイショね。まだ誰にも知られたくないかも知れないし。」
「あー・・・それは大丈夫。だって、高専の提案したのあたしだから。」
「えっ。夏樹が?夏樹が教えたの?」
「うん。進学って言っても色々あるんだよって。K市のばあちゃんとこ行く時、あたしも一緒に行きたい。」
優子は目を丸くした。
「夏樹も?」
「うん。なんなら二人で行ってきてもいーよ。」




