目撃者
土曜日の夕方、春人は部活の練習試合があったので、チームメイトの外谷の自家用車で会場から駅まで送ってもらった。他のチームメイトである塚田と丸山も一緒である。三人は同じ小学校で家が近所なのだ。
「お疲れ様。じゃあまたね。」
外谷の母親が運転席から手を振った。
「ありやっとやんしたー。」
下ろしてもらった三人が声を揃えて礼を言う。
チームの保護者たちが持ち回りでチームの送迎をしている。今日は外谷の家の当番だったのだ。
「今日は外谷も調子良かったよなー。シュート結構入ったじゃん。」
「だな。午後の試合はダブルスコアで勝てたし。次の大会はもっと勝ち進めるぜ。目指せ県大会だ。」
「だな。来週も練習メニューきっつい・・・。」
両肩の骨をゴキゴキと鳴らしていた塚田が、駅前通りの商店街で何かを見つけたように視線を向ける。
「なあ、あれって大滝の親父さんじゃね?」
同級生の塚田は春人と同じ小学校で同じミニバスケットのチームにいたから、春人の両親や姉の顔を知っていた。
言われて春人と丸山もそちらへ顔を向ける。
濃いグレーのスーツを着ている中年の男とワンピース姿の女性が一緒に歩いていた。女性は美人で若そうで、しかもどこかで見たことが有るような気がしたが、春人の母親ではないことは確かだ。
「・・・人違いじゃん。俺の親父スーツとか着ないし。」
はっきりと否定して、春人は視線を逸らす。
「だっけな?」
首をひねりながら塚田も駅前のゲーセンの方へ顔を向けた。
「かもな。最後に見たのいつだっけー?けっこ前だから、忘れちまってんかな。」
丸山も同じ出身だから、顔を知っている。
「それよか、ちょっとだけゲーセン寄ろうぜ。」
春人は先頭切って走り出した。
保険会社からの通知を見て、思わず優子は眉根を寄せる。
またも、保険料が残高不足で引き落とされなかったのだ。何度も続けて引き落としが出来ないと保険そのものが無効となってしまうのだ。
先月はクレジットカードの会社からの電話も来ていた。残高不足で引き落としが出来ない報告だ。続けば、下手をするとブラックリスト入りかもしれない。
保険会社の契約は子供たちの学資保険だ。夫の両親が、彼らの義理もあって契約したもので、最初の10年間だけは夫の両親が保険料も支払ってくれていたのだが、その後、名義変更して夫の克行が支払うことになったのである。まあ自分たちの子供の保険なのだから当然だった。その保険の支払いが滞っている。
これから高校受験を迎える春人も、大学進学を望む夏樹も、お金が必要になる。そういうときのための、学資保険なのだ。肝心の時にお金が下りないのでは困る。
クレジットカードの分は、克行が自分で足りない分を補足すると言っていたのに、間に合っていないのか本当にお金がないのか。
夫が、どうしてこんなにも金遣いが荒くなったのか、優子には理解できなかった。以前はカードなど必要なかったくらいに、どうにかやっていけてたのに。
カードの明細を請求してみてもいいかもしれない。家族カードなので、優子も同じカードを持っている。請求すれば家族全員分の明細を取れるはずだ。
「ただいま」
長男のお帰りだ。大きなボストンバッグを背に、リビングへ入ってくる。
「おかえりなさい。外谷さんちにはお礼の電話しとくわね。試合はどうだったの?」
「勝った。いい感じだった。・・・なあ母さん、今日って父さん仕事って話だったよな?」
優子はダイニングテーブルの上の、保険会社からの封筒を片付けた。
「ええ。そう言ってたわよ?」
春人の顔色はなんだか冴えない。今日の練習試合は勝ったし、調子もよかったとたった今自分で言ってたのに。
「・・・商店街を歩いてたんだけど。」