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B  作者: すずき あい
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エピローグ


「俺の頭の中には『幻獣の核』の情報が入っている。あまり手荒に扱うとトブかもなあ」


かつて「ロイ」と名乗っていた男は、秘密裏なルートで帝国の国境を越え、北の地へ帰国した。脱出の際に目に怪我を負った為、目には包帯を巻き手には杖を持っていた。


「本来ならば報告書を出させるのだが…致し方あるまい。謁見を許可する」


彼は対応した貴族の男の不服げな反応に、口の端を微かに上げた。しかし、再び難癖を付けられては困ると思い、見えないように頭を垂れる。一見畏まっている風の彼の様子に多少の溜飲を下げたのか、貴族の男はフン、と鼻で笑って、部下に謁見の手続きを命令していた。


(あと少しだ…何とか間に合った…)


半年程前に帝国のビート領で起きた領主夫妻の死亡事故。後継者が正式に決まっていなかったこともあり一旦は皇帝直轄領にしたものの、実務を担当する者が決まらず鉱山の採掘も停止していた。ビート領の金の産出が滞ることで、少しずつではあるが確実に帝国は困窮に傾いているらしい。

更に最近では治安の悪化からか、各地で大量殺人が横行しているという話も流れて来る。特に、帝都で一、二を争うと評判だった娼館の従業員達が一人の男によって皆殺しになったというニュースはまだ人々の記憶に新しい。


男は、時折混濁する意識の中で、この国に戻るまでに手配した依頼を思い返す。


帰国前に入手した、とある場所で「保護」されている弟の安否の情報。男はありったけの財産と伝手を使い、信頼できる実力者に弟の救出と国外への脱出を依頼していた。その依頼が成功したのかは分からない。失敗したのか、或いは反古にされたかも、もはや確かめる術も時間も男には残されていなかった。


(運に任せるさ…)


男の小指に嵌められた指輪の青色の石がキラリと光る。ここに戻るまでの苦境で痩せ細った体は、子供用の指輪でも小指であれば無理なく嵌めることが出来るようになっていた。


「女王陛下は良き報告をお望みだ」


「承知しております」


男は歪んだ笑みを浮かべながら、貴族の男に着いて歩く。途中、僅かな段差に躓いて転び、緩んでいた目に巻いてあった包帯がほどけて落ちる。


「ふん、身なりくらいきちんと整えておけ」

「申し訳ございません」


先を急かされ、男は包帯を懐に入れる。露になった顔に目立った傷はなかったが、怪我の影響なのかその目は閉じられたままだった。


(あと少し。この先は…)


男は帰国の途中、何度も「傭兵」の本能が発動して「女王」の敵となる女性を排除して来た。が、その過程で女性の姿が目に入らなければ辛うじてその本能を押さえつけることが可能ということに気付いたのだ。それからは怪我を装い目隠しをして、人の少ない場所を隠れるように移動してようやく辿り着いた。


男が排除したい敵は一人だけ。


女王の待つ謁見の間は、腕の立つ「男」ばかりで固められている。この国の頂点に君臨する「女王陛下」を護る為に。


謁見の間に入る前に武器になりそうな杖も取り上げられ、手荒に叩頭させられる。


「無礼のないよう、仔細全てご報告申し上げろ」


「『女王陛下』のお望みのままに」


閉じられていた男の目が開く。平伏していた為に誰もそれを見ることはなかったが、男の虹彩は血のように赤く染まっている。



謁見の間の扉が、静かに開いた。



タイトルは、型落ちの意味のB級品と蜂(BEE) から。

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