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プロローグ
窓のない部屋に、椅子に座る男が一人。
その手には手枷が嵌められているが、その必要があるのかと思う程無抵抗で、ずっとダラリと弛緩した様子だった。
『本来なら、其方の言い分を聞く場など設けずに処分するところではある、が。これまでの功績とこれからの働き次第で恩情を与えてやろう』
女の声だけが、男のいる空間に響いた。反響のせいかひび割れたような声だったが、その男を蔑んでいる口調はよく伝わった。
男は俯いたまま動かない。
『期待以上の働きを見せれば、城で保護している其方の弟の身柄を引き渡してやっても良い』
男が顔を上げる。
「女王陛下のお望みのままに」
男は、掠れた声でそう応えた。