酒場
私は人間だった。それは戦う者だということを意味している。――ゲーテ
夜の帳が下りていたが、酒場はランプの光で満ちていた。中央には円形の机がある。側には2人の男が立っている。1人は筋骨隆々であり、もう1人は細身でやつれた顔をしている。酔っぱらい達がその周囲をグルリと囲んでいる。
天井には、机の様子がはっきりと分かるように鏡がついている。鏡は、2人の旋毛と机の上に置かれたピザを映している。
もちろんピザは艶々な木皿の上に乗っけられている。
私の胸は高鳴っていく。
大男がピザへと手を伸ばす。大男はそのまま木皿の端っこを持ち、勢いよく回す。ピザは凄まじいスピードで回っていく。チーズは飛び散りたがっている。
歓声が湧き上がる。
2人の男は回るピザを真剣に見つめている。
ピザは徐々にその回転を緩めていって、やがて止まる。
私はごくりと生唾を飲んだ。
当然ピザは7つに切り分けられている。大男は手前の切れ端を取り、すぐさまピザを食らう。
1秒が経った。
2秒、3秒。
大男は握り拳を高く上げる。
歓声が湧き上がる。
私はその姿を見てエクスタシーを感じる。
次に、枯れ木のような男が木皿を回す。彼はゆったりと回っているピザを静かに眺めている。
ピザが止まると、彼は1番近くにある切れ端を口へ運ぶ。
途端に彼は首を掻きむしる。
私は不意に欠伸をし、目を閉じてしまう。
目を開けると、それは死んでいた。
猛毒入りのpizzaを引いたのだろう。
今夜のピザランルーレットは盛り上がりに欠けるな、と私は小さく呟いた。