⑦
「あ、門が見えてきましたよー! もう少しですねー」
ただ、リンシアの扱いだけは、どうしたもんかと頭を悩ませた。
ここまで懐かれるような要素は一つも出していないはずなのだが、困った事に、彼女だけは剥がせそうにない。
自分のような死に遅れた壮年の、何に心を惹かれたのやら。そう言った方面の仕事を請け負ったことがないので、上手いあしらい方が思いつかない。
パンテーラの外壁は高く、街がソレなりに発展していることが窺える。主要都市とまではいかないが、交易都市として活用されているからこそ、防衛拠点として外壁が高くされているのだろう。
そんなパンテーラの街の門番に、サンバンは早速止められた。
「…ブラックジャケットの仕事の話は聞いていない。どう言った用件だ」
「用は無いよ。強いて言うなら療養だね。ちょっと怪我したから休みたいのさ」
怪訝な顔で一緒に来ていた四人を見る門番。リアは仕方がないと言うふうに答える。
「倒れてたところを拾ったのさ。本人が言うには、崖から落ちたらしいけどね」
「怪我をしていたのも本当です。全身打身で、今動けるのも不思議なくらいですよ」
門番に顔が知れているのか、リアとイアンの言葉を聞いた門番が、少し考えた後、確認を取ってくると別の場所に走っていった。上司か何かに取り合うのだろう。門前払いはされなさそうだと少し安心する。
「ところで、先の戦争には参加していたのかね?」
別の門番から唐突にすっ飛んできた質問に、惚けた顔で尋ねる。
「参加してると何かあるのかい?同業がしてるかもしれないけど」
「…いや、傭兵にかける罪はない。余程のことがない限りはな。戦争であればなおのこと雇った側の責任だ。ただ、こちらになくとも向こうにあるかもしれん。ようやく揉め事が収まってきたんだ、持ってきて欲しくないだけの話だ」
ブラックジャケットは傭兵を守らないからな。
そう締めた門番に、リンシアが首を傾げた。
どういうことなのかを尋ねる前に、もう一人が帰ってきた。
「サンバンと言ったな、確認したところ、お前はブラックジャケットを先日付で解雇されている。よって、この身分証は無効だ」
「えー! それじゃあサンバンさんは街に入れないって事ですかー?!」
「早とちりするな。逆だ、ブラックジャケットであれば断るところだった。お前は今何者でもない。街に入って休むなりなんなりするがいい。ただし、揉め事は起こすなよ。それと、新しい身分は獲得しておいた方がいいだろう。傭兵でも冒険者でもいい、この街には様々なものがある」
ホッとしたリンシアを横目に、門番は言った。
「ようこそ、パンテーラへ。我々は君を歓迎しよう」