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サンバン  作者: 如月厄人
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 森を抜けるべく早足で進んでいたロイ達は、リンシアの一言で足を止めた。

「私やっぱり戻る。サンバンさんを見捨てるなんて出來ない」

「リンシア! サンバンさんの行いを無駄にするつもりですか!」

「でも…!」

 口論になりかけたその時、耳を劈く咆哮が響く。

 たったのひと吠え、間近に聞いたわけでもないのに、身體がすくみ上がる。

 リンシアを引く手が緩んだ隙に來た道を戻るように駆け出す。

「っ!リンシア!」

「追いかけるぞ!」

「しょうがないね、ほらイアン行くよ!」

「くっ…なんて事を…!」

「聖職者らしくないねぇ!神官様なら助ける側なんじゃないかい?!」

 走りながらそういうリアにイアンは悪態を吐く。

「冒険者をしていれば、聖職者だろうがなんだろうが取捨選択はします! 今はサンバンさんを捨てるべきでしょう!僕はまだ死ぬつもりはありませんからね!」

 早足で進んでいた分、走って戻ったからか、先程の道には、直ぐにたどり著いた。リンシアが肩で息をしながら足を止め、その視線の先には、サンバンが居た。

 何か巨大な毛玉に腰掛け、膝に肘を置き、暇そうに頬杖をつく彼は、戻ってきた四人に気づくと、驚いたような顔をした後、軽く手を振った。

「なんだ、先に行っててくれてよかったのに」

 なんでもないように言うサンバンに、イアンは背筋に悪寒を感じた。先程の遠吠えを聞いた時とは別種の恐怖が身體を駆け巡る。

 同じ人間とは到底思えなかった。

「今血抜きしてるからまだしばらく掛かるんだよね。君らも座るかい?」

「えっ…と、これは…サンバンさんが…?」

「ん? うん、そうだよ。首はちゃんと落としてあるから、安心してね。あ、そうだ、革とか持ってくかい?いい値段になると思うよ。あと爪も」

 ぽんぽん、と座っているソレを軽く叩く。

 リアもロイも唖然として言葉が出ない。橫たわっているにもかかわらず見上げるほど巨大なソレからは、咽せるような生臭い臭いを放っており、少し視線を下げれば、首がスッパリと落ちているのがみてとれる。

 前衛であり剣士でもあるロイからすれば、あり得ないほど綺麗な斷面だった。

 その斷面からは絶え間なく血が流れており、恐らくサンバンが作った地面の溝に従って一方行に流れていた。狩人こそがよく知る手法に、リアが生唾を飲む。

 誰が、どう見ても、どこをとっても、異様としか言えない光景、だと言うのに、當のサンバンは當たり前の顔をしている。

 リンシアを除く三人には、サンバンが理解できなかった。理解の及ばぬ未知の存在は、彼らをより恐怖に引きずり込む。

 イアンが後ずさる。ロイも、リアも、徐々に距離を取る。そんな中、リンシアだけが、サンバンに近づいていった。

「サンバンさん強いんですね! お一人でこんな大きな魔獣を倒しちゃうだなんて! こんな人が護衛についてくれるんですよ! お得じゃないですか!? ってあれ?」

 距離が遠い、素直にそう感じたリンシアが首を傾げると、サンバンは苦笑いした。

「怖いんだろうね、ボクが。だから先に行っててもらおうと思ってたんだけどなぁ。まぁいいか。一応言っておくと、このままだと他の魔獣が臭いを嗅ぎつけてやってくる。森をら出るなら臭いが出ている今のうちだよ」

 どうする?というサンバンの問いかけに、リンシアは慌てて荷物を背負いなおす。

「じゃあ行きましょー!素材は勿體無いですけど、私たちじゃたくさんの魔獣とは戦えませんからー」

 リンシアがサンバンに手を伸ばす。更に驚いた顔をするサンバン。どうしたもんかと少し頰をかいたあと、その手に乗ることにした。

 手を摑んで地面に降り立ち先頭を歩く。橫目でチラリと三人を見つつ、後ろからついてこい、と言うふうに顎を動かした。

 サンバンの橫にはリンシアがピッタリとつき、何やら楽しそうにしている。話し聲は魔獣の呼び水になるため話しかけこそしないが、明らかに上機嫌である。

 それを見た三人は、恐る恐ると言うふうに、その後ろについていった。

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