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その後、脱出したテオ達に応援として呼ばれた冒険者ギルドや、ドライ達によって城内に蔓延っていた洗脳の種は取り除かれ、国の崩壊は免れた。
ブラックジャケットが更に手を打ってくることが考えられたが、サンバン曰く
「イチバンとニバンがいなくなったなら、多分これ以上は来ないよ。彼ら以上に仕事をできる人達はいないからね」
との事で、しばらく国は内政に集中する事となった。
さて、当のサンバンはというと、アナセマの護衛の仕事をキッチリと終わらせ、パンテーラへと帰ってきていた。隣にはベアトリーチェの姿もあり、二人は揃って家に帰ることが出来たのだった。
ベアトリーチェは国王から正式に冒険者で居続けることを約束されたので、今後連れ戻されることはないだろう。ゴタゴタもあったが、ベアトリーチェとしては、自分が大きく成長するいい機会だったと思うことにしていた。
(これでまた、サンバンさんと二人きり…!)
そう思っていた矢先のことである。
夜、家の扉がノックされ、二人は揃って視線をやった。サンバンは目をパチクリと瞬かせる。口からはまさか、と言葉が漏れた。続けてベアトリーチェの顔が嫌そうに歪む。
「出ないという選択肢は…」
「あるかもしれないけど…「師匠! ギルドから今日はもう仕事してないって聞いてるんだからね! 家にいるのはわかってるよ!」…壊される前に開けた方がいいかなぁ」
「くぅ…」
ベアトリーチェが扉を開けると、大荷物を抱えた女性が立っていた。
特級冒険者、ザラ・インヴィクティス。
「王都が落ち着いたからようやくこっちにこれたよ。元気してたかい?」
「あぁ、上手くやってるよ。君も、怪我はもう大丈夫そうだね」
「当然さね。身体が強くなきゃ、冒険者なんてやってらんないよ」
「ご用向きはなんでしょうか?」
目の前のベアトリーチェをスルーしてサンバンと言葉を交わすザラにムッとして、ベアトリーチェが引き戻す。
「っとと、悪いね。今日からここに世話になるよ」
「はい?」
「…急だね」
「話してないからね」
「せめて許可取ってからにしてくれませんか?!」
「えー? 弟子が師匠のところに転がり込んで何か問題あるのかい? アンタもそうだろう?」
「私は転がり込んだんじゃなくて、サンバンさんに誘っていただいたんですぅー!」
ムキになって声を荒げるベアトリーチェを宥めつつ、サンバンはくつくつと笑った。
楽しい。
昔の職場では感じることなどなかった感情が、サンバンの中でいくつも浮かんでいく。
「それじゃ、部屋をふってあげないとね」
「えぇー!! いいんですかサンバンさん?!」
「ふふふ! 話がわかるねぇ!」
せっかく二人きりになれたのに…、と項垂れるベアトリーチェを見て、ザラはニンマリと笑った後で、その背中を叩いた。派手な音が鳴り、ベアトリーチェは強制的にその背筋を伸ばされる。
「冗談だよ、アタシは拠点を移すつもりは無いよ。ここにきたのは別件さ」
ザラは家に上がると、大きな荷物を解いて、その中の書簡をベアトリーチェに渡した。
「コレは………」
「そう、ギルドからのアンタらに、だ」
ベアトリーチェはその書簡に目を通すと、ばっ、とサンバンに向き直り、飛びついた。
「っとと」
「やりました! 認められました! 私…私等級が上がったんです!」
サンバンも書簡に目を通すと、そこにはベアトリーチェとサンバンの名前が並んでおり、二人揃って、準一級への昇級が書かれていた。
「本当は特級まであげたかったんだけどねぇ、本部の連中の頭が硬くて硬くて…。でも、アンタ達なら特級もすぐだろう? だから、待ってるよ、アンタらと同じ仕事ができるのをね」
ベアトリーチェが泣き笑いしながら頷いた。
その後、ザラは予め取ってある宿へと戻っていき、ベアトリーチェは別の意味でも喜びの涙を流した。
また別の日、サンバンは森に訪れていた。
サンバンは森の奥へ奥へと進んでいく。やがて、森の奥からもゆったりとした足音が聞こえてきた。
「やぁ、久しぶりだね」
『…何の用だ』
「いや、ちょっと挨拶に来ただけだよ。魔物はいつすげかわるかわからないからね」
『そうか』
「この街を離れることにしたんだ」
『一人で、か?』
「ううん、連れがいるよ」
近くにあった切り株に腰掛け一息。
巨狼もその近くに腰を下ろした。
「コレはおじさんの一人語りなんだけどね」
前置きをしてから、サンバンはゆっくりと話し始める。
「ボクは物心ついた頃には、傭兵として生きてきた。同年代の子達もいたけれど、生き残ったのはボクだけだった。なんていうか、子供ながらに、生きづらい世の中だなぁって思ってた。だから、生きやすくするために何でもやったし、何でも覚えた。殺人も、話術も、笑顔も。だけど、不思議なんだよね」
腰につけていた鈴を鳴らす。
「最近になってまた、いろんなことを覚えるんだ。嬉しい、楽しい、面白い。家事の難しさも初めて知ったし、お金の管理なんてしたこともなかった。あれは大変だね。装備にも愛着が湧いた。手入れの仕方も教わったよ、加減が難しくて何度か折りかけた」
せっかく愛着が湧いたのにね。
サンバンは空を見上げた。
「君も、たまには遠くに行ってもいいかもね」
『考えておこう。ここも存外居心地が良いのでな、外に出ればお前のようなものに狩られかねん』
「あはは、それの関しては保証できないなぁ」
さてと。
立ち上がったサンバンに、狼も目をやる。
「そろそろ行くよ、元気でね」
『死なぬようにはする』
サンバンはうなずいて、その場を後にした。
いつか、冒険者達と出会い、最初に寝食を共にした場所、そこで、ベアトリーチェは待っていた。
「待たせたね」
「いえいえ、挨拶は出来ましたか?」
「うん、してきたよ」
「よかった。それじゃあ、行きましょうか」
サンバンは剣を背負ったベアトリーチェの背中に、声を掛けた。
「ベア」
「? はい、サンバンさん」
「これからもよろしくね」
サンバンの言葉に、一瞬だけ目を瞬かせた後、満面の笑みを浮かべて、ベアトリーチェは頷いた。
「はい! ずっと一緒ですよ!」
薬指のリングが、木漏れ日を受けて輝いていた。
短編を書きたかったんです。本当です。
どうして書き始めると最低でも10万文字近辺まで行くんですかね?
一応コレでも削ったんです。戦闘とか凄く薄味になってるのはそのせいです。
あと分割投稿が適当すぎて長さがまちまちになってしまい申し訳ありません。
仕事の息抜きで書き始めて、ちょちょいと終わらせるつもりだったのに…。
兎にも角にも、お付き合いいただきありがとうございます。他二つ、連載に戻ります。
これからもよろしくお願いします。




