表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/68

8.出会(であ)い


   〇前回のあらすじです。

   『【学院がくいん】のぜん学長がくちょうに、貴族のつきそいをたのまれる』






 一日(いちにち)支度したくをすませた。

 八月(はちがつ)中旬ちゅうじゅん。【ワルプルギス山】ふもとの都市(とし)和泉(いずみ)は来た。

 キレイに――【学院(がくいん)】の威信いしんを損ねないように仕立てた、よそ行きのシャツとスラックス。

 (きぬ)のネクタイをれない手つきで締めた格好に、上から(なつ)仕様しよう黒法衣(くろほうえ)羽織はおっている。

 午前の九時。

 天候のみだれ――台風や(あらし)基本きほん的にすくない【(うら)】の世界は、今日きょうも快晴。

 積乱雲(せきらんうん)さえ出ていない、あおくさわやかな空模様そらもようである。

「ここでってるよな?」

 ――()えばわかる。

 (はく)教授(きょうじゅ)にそう言われたのちおしえられたち合わ(あ)せ場所ばしょは、【トリス】の(まち)――【学院(がくいん)】に比較的ちかい都市――の、停車場(ていしゃじょう)である。


 三日(みっか)旅程りょていてホゴル(りょう)はいり、当該とうがい地域にまつわる不穏ふおんなウワサを調査(ちょうさ)する。

 それがはく前学院長(ぜんがくいんちょう)から和泉いずみあたえられた仕事だ。

 が。

(まさか。先に行っちゃったのかな)

 調査ちょうさには相棒(あいぼう)がいる。

 というか。実際に主体(しゅたい)となるのは相方あいかたのほうで、和泉(いずみ)彼女(かのじょ)のつきそいである。

 彼女の名前(なまえ)特徴(とくちょう)は、事前に知らされていた。

 生徒名簿(めいぼ)の高等部三年(さんねん)のページにあった、黒髪黒目くろかみくろめ少女しょうじょ

 馬車(ばしゃ)が来た。

 しかし和泉は動かず、乗車じょうしゃ見送みおくる。

 下車げしゃした(きゃく)らが、ちらちらと横目(よこめ)にこちらをとおぎていく。

 大陸随一(ずいいち)魔法(まほう)教育きょういくほこる【学院】の、教員きょういん研究者用けんきゅうしゃよう黒法衣(くろほうえ)を着ているのが人目(ひとめ)を引く要因よういんだろう。

 からん。

 メインストリートのほうで喫茶店(きっさてん)のドアがあいた。

 まだ人のすくない時間帯だからか。ベルの(おと)がやたらつよく、すずしく耳朶(じだ)に触れる。

 店から一人ひとり魔女(まじょ)が出てくる。


 まよいのない動きでかおをあげ、彼女かのじょ南門(みなみもん)手前てまえ――停留所(ていりゅうじょ)にぼさッと立つ唯一ゆいいつ()(きゃく)焦点(しょうてん)わせた。

和泉(いずみ)教授(きょうじゅ)。ですわね?」

「あ? あー。……うん」

 鮮烈な真水(まみず)をあびせられた気がして、和泉はぱくぱく。窒息(ちっそく)したさかなみたいにくちを開閉かいへいした。

「えっと。おまえは――」

 相手あいて風采(ふうさい)を確認する。

 年は十七(じゅうなな)

 大人おとなびたキレイな顔に、腰までのびた(くろ)(かみ)ほそ()んだ横毛(よこげ)みみまえにおろして、(あか)いリボンでむすんでいる。

 (せん)ほそいが、身長しんちょう和泉(いずみ)よりやや低いくらい。

 ノースリーブのシャツとみじかいスカートの服装に、上から学生(よう)(しろ)マントをつけていた。

 ほっそりとした首からさげているのは、まだらのストール……。ではなくて。黄色に黒斑(くろぶち)の毒ヘビ。


「メイ・ウォーリック。で、ってる?」

「そうですが。御前(おまえ)に『おまえ』とばれるわれはありません」

 持っていたトランクで、彼女かのじょ――ウォーリックは、へっぴり腰にゆび差す和泉いずみの手をはたきとした。

 ゴッ。

 と。わりと洒落しゃれにならない(おと)青年せいねんの手首からあがる。

「うぐおおっ……!」

 うめいて、和泉は()れた手をプランプランさせた。

 ゆるい丘陵(きゅうりょう)にのびる街道を、学生の少女しょうじょはのぞきこむ。

馬車(ばしゃ)が来ますね。あれにりますわよ」

 涙目(なみだめ)和泉(いずみ)はウォーリックに取りすがった。

「おまえさあ~。遅刻しといて、その態度はないんじゃないの。大体オレは、おまえの調査(ちょうさ)をサポートする立場たちばなんだからさ……」

 ――もうちょっと、穏健(おんけん)にたのむよ。

 と訴えようとすると、にらまれた。

「結構。わたくしは一人ひとりでもできると、同盟(どうめい)には言ってあるのです。それを、弱小(じゃくしょう)領地りょうち若輩者(じゃくはいもの)だからとか。新参の()だから信用しんようならないとか」


 業腹(ごうはら)

 というよりは。現状げんじょうを観察する淡泊(たんぱく)調子ちょうしでウォーリックは言った。

「それより教授きょうじゅ

 和泉いずみ右手(みぎて)て、彼女かのじょ嘆息たんそくする。

「あなたのことは、すこしは(みみ)れています」

 【学院(がくいん)】でもに掛けられたものにおくられる、【ソロモンの指環(ゆびわ)】。

 それが彼の中指なかゆびにはある。

 和泉はなんとなく居心地(わる)く、「そっか」とそっぽをく。

「そこそこは出来る魔術師まじゅつしだとうかがっています。ですが。一時(いっとき)であれ、あなたの世話になる気はありません。(はく)がどういうつもりであなたを寄越よこしたのか。わたくしには分からない」

(……オレにもわからない)

 めそめそ。

 胸中(きょうちゅう)なみだして、和泉(いずみ)はウォーリックに同意した。

 馬車ばしゃが来る。

 馬蹄(ばてい)車輪(しゃりん)おとが、ふたりのまえで停止する。


「まあ。なにはともあれ一緒いっしょに行くんだ。よろしくたのむよ。メイ」

 ――しゃあッ。

 ヘビのあごゆびして、その毒牙を生徒の魔女まじょ和泉いずみはなつ。

 握手(あくしゅ)のために差し出した手を――とっさに和泉はホールドアップに変えた。

気安きやすばないでいただけますか。和泉教授(きょうじゅ)

「……よ。よろしくおねがいします。ウォーリックさん……」

 乗車(じょうしゃ)をするまえから()ったように顔色かおいろをわるくして、ピクピク和泉はほおをケイレンさせた。

 ウォーリックは、(ほろ)った客席(きゃくせき)り込んでいく。

 (あたま)と胃の痛みをこらえつつ、和泉(いずみ)もまた、彼女かのじょにつづいて馬車(ばしゃ)後部こうぶカーテンをくぐった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ