7.file(ファイル)
〇前回のあらすじです。
『和泉が、箔から仕事の資料をわたされる』
屋敷のリビングに箔の茶を飲む音がする。
ファイルの書類を和泉は見た。
「ホゴル領……。大陸南部の――」
案件の一部を、要領を得ない発音で抜粋する。
「辺境に行ってもらうことになる。そこの調査に、君にはつきあってもらいたい」
「ちょう……。えっ。なにかあったんですか?」
書類を読め。
と睨まれるかと身がまえたが、箔は肩をすくめただけだった。
「以前から領民支配の強い土地だったんだがな。それだけなら、我々も対岸の火事と看過できた。しかし最近、その動きに不穏な部分が出てきたようでな」
(……。名ばかり組織だな)
相互の領土を監督し、時に圧政を糾弾する――。
とは【貴族同盟】の標語だが、実際はほかの地域が突出したちからを持たないよう監視し、場合によっては没収するための方便である。
(いつの世も。どこの社会も。下の者には世知辛いものなのかな)
かく言う和泉も庶民だが……。
残りの文章に視線をやりながら嘆息する。義眼の両目を留める。
(死霊魔術?)
箔のほうに問いかけようと、和泉は顔をあげた。
老教授は相手の懸念を認めたようで、うなずいた。
「違法な魔法薬物を使用しているのではないか。との通報があってな」
「それでオレは、箔先生の手伝いとして、ホゴル領に行けばいいんですか?」
「いや……」
言いにくそうに箔は身を引いた。
筋肉質に角ばった顎を、太いゆびで掻く。
「現地には別の魔術師に行ってもらう。彼女も貴族だ……。が、」
「ちから不足。とかですか?」
「実力はある。私が保証しよう。ただ――」
灰色の眼を、箔は決して和泉と合わせようとしなかった。
しばし黙し……。
「会えばわかる」
と。覇気の失せた言葉のみを返した。
(『第1幕:ある日の午後』おわり)
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