55.やけど
〇前回のあらすじです。
『和泉が玉座の部屋をあとにする』
〇
玄関ホールは静かだった。
充満していたスチームも、騒音もない。
階段したのエントランスには、人の顔が三つと、獣の四肢がころがっていた。
胴体と、手足のいくらかがない。
内部から破壊されたか。逆に、外から急激な圧迫を受けて破裂したのか。
「やあ。和泉教授」
赤いベレー帽の少女が片手をあげた。和泉はてすりにつかまり、一歩ずつおりていく。
サロペットにベレーの、黒髪の少女――リリンは、紫の血だまりのそばに立っていた。ウォーリックもいる。
「……ウォーリック。だいじょうぶか?」
なんとなく彼女がぼんやりしている気がして、和泉は声をかけた。
耳もとの三つ編みを結っていたリボンが、ひとつなくなっている。
「見てわかりませんか。生きています」
彼女の手のなかには椋鳥――マーゴットがいた。そちらは死んでいた。
握り潰したのだ。
和泉は目をそらす。
「いや……。その。やけど。残らないかなって意味だったんだけど」
心配の中心を和泉ははぐらかした。「おちこんでいるみたいだったから」と言ったら、彼女のプライドを傷つけてしまうみたいで。
ウォーリックは自分の頬に触れた。白い素肌が、右の目のしたから顎先にかけてただれている。
「一週間もあればなんとかなるでしょう。薬学には秀でた知りあいがいますし。治りが悪ければ、そちらにまかせます」
「……オレからも処置しておくよ。痛み止めくらいにはなるだろ」
和泉は治癒の魔法を放った。赤みが若干ひいた気がするが……。あくまで気のせいレベル。
「どうも」
ほどけた方の髪をかきあげて、ウォーリックは身を返した。手にしていた椋鳥の死骸を、クリーチャーのそばに置く。
「これでわたくしたちの仕事は終わりですわね」
「ん? ……ああ」
把手をつかんだ鳥かごを、和泉はかかげた。横からリリンが受け取る。
「おつかれだったね。和泉教授」
ねぎらいの言葉を、ベレー帽の少女がかけてくる。彼女の主人――ウォーリックは無言でエントランスの扉を開ける。
外に出る。
(第5幕:『哲学的ゾンビ』おわり)




