54.主従(しゅじゅう)の魔法(まほう)
〇前回のあらすじです。
『和泉がホゴルをつかまえる』
和泉はあえぐように呪文をつぶやいた。
怪我と痛みを治癒する。
そのあいだにも、ニネヴェの陥穽は変化をつづける。
なかに閉じこめたホゴルがクリスタルに変化した。
彼の存在そのものを、装置が一時的に結晶体として保存したのだ。原理は和泉にはわからなかったが。
檻がちいさくなる。
小鳥を飼い持ち運びできる、通常のサイズに。
『ぶるるるる……』
馬はうなった。
体表面についた、人の目やくちが、怨めし気に和泉のほうへ蠢く。
大山椒魚もまた、もどかしげに彼を見据えた。
「……主人の指示がなければ、おまえらほんとになにもできないんだな」
その点。オレの使い魔は優秀だぞ。
と立ちあがりながら和泉は自慢する。すこしわがままが過ぎるのがネックだが。
痛みのぬけきらない足をひきずって、ホゴルのもとへすすむ。
魔法の鳥かごのなかで、白銀にかがやく魔術師の結晶が浮いていた。
頭頂部の輪っかを持つ。クリーチャーたちは襲ってこない。おそらくは、主従の魔法でしばられた彼らは、主人が生きているあいだは生きながらえることができるのだろうが。
(……ほっとくか)
主人不在の使い魔のみじめさを和泉は知っていた。
かつて五年ものあいだ放置され、主人を待ちつづけた犬のことを思い返す。
彼女はしかし、我がつよかった。良くも悪くも。
だが。彼らは――。
カゴを手に、和泉はきびすを返した。
一階へ足を引きずっていく。
ウォーリックの元へ。




