51.十二才
〇前回のあらすじです。
『和泉がウォーリックをおいて、ホゴルの元に急ぐ』
〇
玄関フロアをあがると、和泉は長い廊下に出た。
階段はないが、事前に確認した外装から、ここは最上階ではない。
通路には警備の男たちがいた。
柱やカベにくたびれているのは、牢を出るまえにリリンがやったものか。
(たどっていけば……。上の階にもどれる!)
和泉たちの幽閉されていた獄は、かなり上のほうだった。そこは離れで、ここは本殿という違いがあるとはいえ、同じくらいのフロアにホゴルの部屋はあるのだろう。
途中までなら兵たちの遺体は、上への道順を覚えていない和泉にとって導き手になる。
無事だった警備のものたちが、手に手に剣や槍をかまえる。
「ほ……。ホゴルさまの元には行かせな――あがああッ!?」
和泉のシューズは剣を正中にした男を捉えた。顔にクツ跡をつけて、鼻血を噴いて兵は倒れる。
「ああっ!?」
「ゴドルフ!?」
「このやろお!!」
同僚の敗北にいきりたった兵が、次々に矛を振るう。
残していた魔力の剣で槍を受け、和泉は魔術を放った。
手を大きく。横に振って。
「まどろみを降ろす、ヒュプノスの韻!」
眠気をさそう波紋が、和泉を中心にして円形に広がる。
閾下に響く子守唄を浴びて、鎧兜をまとった男たちが、ばたばたとくずれていく。
範囲外にあった兵たちは起きたままだが――。
「おいっ。どうした!?」
「……このやろお。うっとうしい術を使いやが――へぶっ!?」
術をのがれた兵士たちを、和泉はみねうちと蹴りでしりぞけた。
階段をみつけ、駆けのぼる。
頭のなかは、一階に置いてきたウォーリックのことでいっぱいだった。
(ホゴルを倒せば……。あのクリーチャーも停止するはず)
人面のケルベロスはマーゴットに忠実だった。ホゴルの使い魔である彼女に従うということは、契約主であるギルベルト・G・ホゴルが、クリーチャーにも従属の魔術を使い、マーゴットの言うことをきくよう囁いたと考えることもできる。だから。
(ザコにかまってる暇はないんだ。……こんな)
廊下の先からぞろぞろ出てくる兵士たち。
自らすすんで領主の元に飼われ、やがては思考を停止し、ゾンビやクリーチャーになり下がることを渇望する。
それもまた、人間的であると言えるのだが――。
和泉は彼らをそう見ることはしたくなかった。
(こんな、くだらないやつらのために!!)
先頭の男の袈裟斬りを、和泉は魔力の刃ではじき返す。
身をひるがえして、柄頭を胸当ての加護のない下腹に叩き込む。
「ぐべあっ!」
男がくちから汚いものを吐いた。
向かってくる領民たちを打ちのめし、捻じ伏せるほど、和泉は自分の思考が冷淡になっていくのを感じる。
あるいは、自分の頭は自分で思っていたよりも、冷静であったと気づいたと言うべきか。
彼は目のまえの連中を。
おのれの意思を、好んで破棄しようとする生きものを。
自分と同じ人間だとは、思えなかった。
(やっぱり。オレにはウォーリックをなじる権利なんか無かった。……あいつは正直なだけだったんだ)
最後尾の少年に、脳天から剣をたたきつける。
「ひい――ッ!」
剣のブレイドが、大きすぎる兜に当たって軽い音をたてた。寸前で加減をしたのだ。
十二才。
ぱっと見た印象だが、それくらいの子供だった。背は高いほうだが――。
びくびくと身をまるめておびえる彼に、和泉は武器をおろした。代わりに胸倉をつかむ。ブレスト・プレートの下からのぞくチュニックのえりを。
「領主の部屋を教えろ。そのあとすぐに――、」
うなずこうとする少年に、和泉はたたみかける。さけぶようにして。
「おまえはこの腐った場所から出ていくんだ!!」




