49.むらさきの血
〇前回のあらすじです。
『和泉たちがクリーチャーと戦う』
ひばりの技法。
それは声帯の代わりに魂を震わせることで魔術を発動する奥義である。
人間の可聴域を越えた領域でのスペルであるために調整がしづらく、よほどの熟練者でなければ、術の質をたもつことはできない。
和泉は『ひばりの技法』の原理こそ知らなかったが、発声の有無で魔法の出力が変わるということは習っていた。
再びクリーチャーが息を吸い込む――。
下から和泉は斬り上げた。
脂ぎった毛皮が剣の刃を受け止める。
筋肉と脂肪で肥えた獣の前脚が、ぶおんと邪魔くさそうに和泉を横へ薙ぐ。
ドガああッあ!
獣の腕が全身をしたたかに打った。
あっけなく和泉は床に転がる。
「くっそお……。こいつッ。刃が通らない!」
ぱんっ!
ウォーリックの円弾が獣の頭部に奔った。まんなかの人面のひたいに、魔力の弾が直撃する。
『があああああああああ!』
うしろに大きく化け物の首がそる。
黒味の強い――むらさきの血が、ホールの大理石を汚す。
起きあがりざま、和泉は叫んだ。
「やったのか」
「いえ。残念ながら」
ウォーリックは銃を構えなおす。
銃身に収束する魔力の輝き。次弾の装填にかかるタイムラグがもどかしい。
大口を開けて、頭上から人面が襲いかかる。
黒や金の瞳を不格好にぎょろぎょろさせて、左の顔がウォーリックの頭を狙う。
「駄犬が……。なまいきな」
――装填が間にあわない。
長いバレットでウォーリックは人面の頬を横に殴りつけた。
反対側に背を向けるかっこう――死角ができる。
がらあきになった少女の背中に、右の人面の生えそろった歯が迫る。
「騎士を刺す、水霊の静寂!」
離れた位置から和泉は唱えた。
六条の水の槍があらわれ、渦を巻きながら怪物を狙い撃つ。
どどどおおおっ!
魔術の水流がクリーチャーの顔面を殴打した。
が。水の勢いは敵の動きを完全に止めるまでには至らない。
『ごおおおおああああ!』
右の頭が青い炎を巻き散らす。
たちまち水の槍が蒸発し、あたりがスチームにつつまれる。
サングラスが曇る。
和泉の視界が、レンズのイエロー一色になる。




