5.墓守(はかもり)
〇前回のあらすじです。
『和泉が昼食をたべる』
〇
食事を終えてホールにもどると、ヘレスが「ご案内します」と先に発った。
扉の前でずっと立って待っていたのだろうか。
訝りつつも、和泉は彼についていく。
【学舎】を出て庭園に入り、ふたりは分かれた道を東へまがる。
踏み固めて舗装とした原始的な通路を行くと、広大な敷地をかこう高い塀に出た。
ぽかりとあいているのは、外と内をつなぐ門。
幾星霜を経た囲いは、色褪せ苔生して、角を摩らし、ところどころ崩れている。
(まるで、なにかの目印みたいだ)
外部からの侵入に対してはおざなりな。
守り手としての機能が放棄された石塀に、和泉はどちらかといえば、内部になにかを封じる陣を想起した。
〇
箔の家は、【学院】を出て山道をいくらか登ったところにあった。
碑の丘を横切り、木々を割いて草原にした【共同墓地】の柵を、道沿いにすすむ。
ぽつねん。
と墓守のようにして、質素な屋敷が現われた。
こじんまりとした前庭に、柳の木が生えている。
玄関までのアプローチの両脇に、紫の花々が咲きみだれ、ハーブ園の様相を呈していた。
ヘレスはこの暑いなか、手袋を装着していた手で門のノブを引いた。
庭に和泉をうながす。
「思ってたより、地味なんだな」
さほど広くない花園にひとりごちる。
「学院にある住居が大きすぎるんですよ」
青年の独白にヘレスは答えて、エントランスへ歩いた。
白髪の魔術師を、主人のもとに導く。