47.虚構(きょこう)の太陽(たいよう)
〇前回のあらすじです。
『和泉とウォーリックがホゴルのもとをめざす』
ホールのステンドグラス。
紅玉や翡翠を散りばめた色硝子から、薄い光が透過する。
空に貼りついているのは、偽りの太陽。
大昔の信仰により、霊界に生成された、虚構の軌道。
神話を奉じた時代に誕生した霊妙なるものたちが、魔術師のよびかけに応じて操作を変えることのできる――。
仮初めの暁は、【裏】の世界がその時刻をむかえた時に消滅する。そしてほどなく、物理世界の太陽に役目をあけわたすだろう。
――そうして。いつもの朝がくる。
「……。なんというか」
「熱烈な歓迎ですわね」
法衣をまとった白髪の青年と、白いマントをつけた黒髪の令嬢が足を止める。
マーゴットは会釈をした。
熱烈な歓迎。とは。彼女の横にいる三つ頭の獣を見ての意見だろう。
「そうイヤな顔をされるのは心外ですね。【学院】でも、似たような研究はされていると聞きますが?」
「貴女の顔を見たくなかったのですわ。マーゴット」
「んなとこに食い下がってもしかたないだろ」
和泉はサングラスを掛けなおした。
レンズで黄色がかった視界に、クリーチャーをとらえる。
【ケルベロス】という、三つの頭部を持つ魔犬に似たフォルム。犬の頭が本来ついている部分には、いびつになった人間の顔がふくれている。
クリーチャー――天然資源である【魔鉱石】を、人為的につくる研究の過程に、魔物の製造がある。
人体こそ使わないものの、【学院】では使い魔として引き取られなかった実験動物たちが、融合や解剖の材料にまわされていた。そうして魔法的な措置によってつくられた怪物たちは、自然発生的な【魔物】とは区別して、【創造物】と呼ばれている。
三頭人面の獣――首から下は犬の体だ――は、マーゴットの脇でうなった。
襲いに来る動きはない。今はまだ。
「主人より、あなたたちへの伝言をあずかっています」
和泉とウォーリックは身がまえた。構わずマーゴットは職務をまっとうする。
「あなたたちふたりが、我が主ギルベルトの元で協力者として従うのなら。この領地における相応の地位と、生活を保障します。もっとも、【学院】は出ていただくことになりますが」
ウォーリックは即答した。
「お断りですわ。だれがこんな貧相な土地にいたいと思うのです」
「……。もう少し、よく考えて決めてほしいものですが」
マーゴットは、和泉に視点を変えた。返事を待つ。
「オレも無理かな。【学院】でまだやりたいことがあるし。それに……」
ぐおー。
広大な空間にまのぬけた音が重なった。
和泉は腹をおさえて。ウォーリックはふんぞりかえったまま。同時に告げる。
「ここは飯の量が期待できないんだよ」
「食べものが少なすぎるのですわ」
「……。それは。どうも」
ひそかにこめかみをヒクヒクさせてマーゴットはつぶやいた。悪かったな。びんぼーで。
「では。交渉は決裂ということで」
ぱちん。
マーゴットが指を鳴らす。それは合図だった。
『がああああああああああ!』
よだれを垂らしてクリーチャーが動き出す。
獣毛に覆われた四肢が床を蹴る。
一気に距離を詰めた頭が、和泉を弾く。
「がッ……!!」
無防備だった身体――上半身が、ベキッ。と鳴る。
おもちゃのように和泉は吹き飛んだ。
背中からカベに激突する。




