46.灰色(はいいろ)の雲
〇前回のあらすじです。
『囚われている人たちの退廃的なようすに、和泉たちがドン引きする』
〇
和泉たちは地上にあがった。
廊下はおぼろな早朝の陽で白んでいる。
雹はなくなり、灰色の雲が空に蓋をしていた。
「和泉教授。わたくしの見まちがいでなければ、」
「ああ」
うすら寒そうに我が身を抱く少女に、和泉はあいづちをした。
地下の。十善地たちのいた部屋――。
「……あの檻に、鍵は掛かっていなかった」
得体の知れないものに唾棄するように、ウォーリックはつぶやいた。
硝子の窓のほうに、和泉は義眼を転じる。
「ほっとこうぜ」
むらさき掛かった黒い目を、ウォーリックはぱちくりさせる。だが。すぐに冷めた表情にもどった。息をついて。
「それも……。そうですわね」
彼女は気を取りなおした。自分の肩をさすっていた手を離す。
「ホゴルのところに行きましょう」
ウォーリックは踵を返した。
かつかつ。床を踏みならして進んでいく。
「彼はたぶん、最上階にいます」
「なんでわかるんだよ」
「貴族は高いところが好きなのですわ。わたくしの家も、人と会う部屋は上のほうですし」
「ふーん。……」
和泉は気のない返事をした。
なんとかと煙は高いところが好きって言うが。
「なにか?」
和泉のうろんな眼差しに、ウォーリックは振りむいた。獰猛に犬歯を剥く。
「いやっ。なんでもない。はやく行こうぜ」
あわてて手を振る。愛想笑いを振りまいて、速足で和泉は前進した。
階段のある、エントランスホールへと向かう。




