44.モルモット
〇前回のあらすじです。
『和泉たちが、暗がりから聞こえた声の正体を確かめにいく』
〇
被験者の部屋は実験室のとなりにあった。
秘密基地。というのが、彼らのいた空間に対する和泉のイメージだ。
内装は質素なワンルームの洋間だが、扉だけが武骨な鉄格子。御不浄はドアで仕切られているので、和泉たちのいた牢屋よりはサービスが良い。
部屋には、奥でゴロ寝しているのがふたり。話しているのがふたりの計四人がいた。
金壺眼の不健康にやせた男が、もうひとりの男と話している。なにがおかしいのか、ぎゃははははははと笑っている。
実は笑った当人さえ、笑う理由など皆目わかっていないのだが。
団子っ鼻の、まだ二十代とおぼしき青年が顔をあげる。扉の外の人影に気づく。
焦点の合わないブラウンの目で、彼は白髪の若者と、黒いロングヘアの少女とを見た。
「なんだい。あんたたちは」
青年の質問に、白い髪の、男のほうが答える。
「えっと。【学院】から来ました。和泉っていいます。こっちは――」
「メイ・ウォーリックです」
男とそのつれ――和泉たちは名乗った。
へっ。とやせた男が手にしたビンをあおる。果実酒だ。
ふたりの魔術師につられて、牢にいる青年も自己紹介をした。
「ぼくはケビン。姓はない。この人は十善寺 泰蔵。あっちにいるひとたちは……。知らないな」
青年――ケビンは、長くのびた、傷みきった金髪のしたで苦笑した。体格は比較的ふっくらしているが、頬にはげっそりとした影がある。部屋が暗いためにそう見えるのか。
酒を飲んでいたほう――十善寺が肩をゆらす。
発作的な。ヒステリックな。ひきつけを起こしたような笑いかただった。
「ご苦労なこったな。はるばる【学院】から。おえらいさんが? 俺らみたいなのを見下しに……。わざわざ」
卑屈な男の態度に、和泉はどこかなつかしさを感じた。
【表】――日本にいたころのにおい。
大人たちの、あきらめきった空気。
腹にちからを入れて、和泉は鉄格子のなかに呼びかける。
「調査に来たんです、オレたちは。ホゴルの違法な術を取り締まるために。薬はもう押収しました。あとは、当人を確保するだけで――」
「よけいなことを」
十善寺は牙を剥いた。
ひょろひょろで服もダブついていて、壁によっかかって座るさまは、とても獰猛とは言えない。
それでも和泉たちに向ける黒い両目は、深いしわの通ったまぶたの奥で、危険な爬虫類のようにぎらぎらと光っていた。
としは四十ほどだろうか。うすい頭髪には白髪が目立って、面長の顔はしわだらけで、六十代とも取れる。が。しっかりした彼の発音と拗ねた動きが、実年齢の若さを裏付けていた。
檻の外から「よけいなこと?」と和泉は疑問した。




