40.本殿(ほんでん)
〇前回のあらすじです。
『使い魔のマーゴットが、主人のホゴルに宮殿内の異常を知らせる』
〇
数歩先を行く少女に、和泉は不審を持ちつつ付いていった。
ふたりが入っていた牢獄は、宮殿のなかでも上階のほうにあった。
せまい階段と通路を伝って本殿のほうに移り、きらびやかな廊下を、今はこうして歩いている。
すでにふたりは、一階まで降りてきていた。
ウォーリックが、ドアのひとつひとつを開ける。
なかを見ては、すぐに閉めるという作業をくりかえしている。
リリンはヘビのすがたにもどって主人の首に垂れさがり、太平楽を気取っていた。
「なあウォーリック。なんか探してるのか?」
いいかげん和泉は気になった。居間らしい暖炉の部屋を、ウォーリックは、やはり入らずにドアを閉める。
紫まじりの黒い眼が、冷めた調子で和泉を射る。
「調合室。……あるいは、実験室」
ぽんっ。
和泉は手を打った。
「そっか。ゾンビパウダーを押収するんだな。証拠品だもんな」
「それもあります。が。あともうひとつ」
最後までは言わずに、つぎのドアへ。ウォーリックは進んだ。
和泉はまったく相手にされていない心地がする。おもしろくない。
「……じゃあ。地下室なんじゃないか」
ウォーリックが止まった。意見をあおぐように、彼女は和泉に顎先を向ける。
「オレ、以前に史貴学院長の屋敷に行ったことがあるんだけど……。そこの地下に、立派な研究室があってさ」
「なぜ」
――というウォーリックのつぶやきは、嘲笑めいたニュアンスを含んでいた。それは和泉ではなく、別のだれかに対するものだった。
「なぜ魔術師は、地面の下が好きなのでしょうね」
「静かだからじゃないかな。そっちのほうが、仕事もはかどるだろうし」
ウォーリックは無言になった。廊下を探索する作業に彼女はもどる。
部屋はひきつづき、確認された。




