38.ぐる
〇前回のあらすじです。
『和泉たちが牢屋にとらわれる』
――金属が地面に落ちる音。
次いで渡る絶叫に、和泉は飛びあがった。
「なにが、」
ばばばばばばばばッ!
鉄格子に取りついた刹那、電流がはしった。
ぷすぷす……。身体の表面を焦がして、和泉は倒れる。
上から、ウォーリックが呆れた視線をやる。
「和泉教授。天井の装置、内側から檻に触れたら反撃する構成も編まれているようでして」
「お……。おまえ……。どーりでおとなしく捕まってると思ったら……」
けむりをくちから吹いて、和泉。
看守の男が牢屋のまえによろめいてくる。滑稽な一人踊りをしているように、和泉には見えた。
「ひっ……。待っ、」
似合わないレザー・メイルを、まるで脱ごうとするように。
慣れないステップにとまどって、千鳥足になったように。
通路で彼はたったひとり、くるくる回り、わめいていた。
すーっ。とその首に、黄色いシルエットが伸びる。
ガラガラヘビだと和泉が気づいた時には、ふたつのちいさな毒牙が看守の皮膚を突いていた。
足がもつれ、倒れる。
床にするりと降りたヘビから、なおも逃れようと男は這った。
にわかにその動きが、力を失う。
「お、おい。あんた……」
和泉は呼びかけた。勢いあまって格子に手をつき、スパークに弾かれる。
看守がケイレンする。
動かなくなる。
ぽんっ。
と間のぬけた音がした。ヘビが少女のすがたに化けたのだ。
「やあ。メイに和泉教授」
赤いベレー帽にサロペットをつけた、みじかい黒髪の女の子。十二才ほどの見た目の彼女は、神経毒をさずけた男にかがみこんだ。男が腰にさげていた鍵束を取りあげる。
「助けに来てあげたよん」
「思ったより遅かったですわね」
かちゃかちゃ。錠を開けて、少女――ウォーリックの使い魔のリリンは、主人とその連れを外に出した。
「村のひとたちに追いかけられてたんだよ。あいつらグルだよ。ここの領主と」
ウォーリックがドアをくぐり、和泉がつづく。
念のため看守の脈を検めたが、手遅れだった。
「もうちょっと、やり方とかあったんじゃないか」
「かも知れませんわね」
うしろの教授を省みず、ウォーリックは石の床を歩いていった。先頭はリリンが行く。
牢の並ぶ廊下には、ほかにも何人もの見張りが倒れていた。
「なあウォーリック。確認しときたいんだけど」
ピクリとも動かない人々を見やって、和泉はウォーリックを呼び止めた。
「おまえ。ここの領主を殺す気じゃないだろうな」
「そのほうが手っ取り早ければ、そうします」
つかつか。
心なしか速足で先を行く女子生徒に、和泉は遅れてついていきながら毒を吐く。
「どうかしてるぜ」
高く響く足音に、「それはどうも」とウォーリックのあしらう声が混じった。
(第4幕:『ネクロマンサーの秘薬』おわり)
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