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鉄と真鍮でできた指環 《2》 ~ネクロマンサーの秘薬~  作者: とり
 第4幕 ネクロマンサーの秘薬(ひやく)
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36.ハティとスコル



   〇再開します。

   〇前回までのあらすじです。

   『夏休なつやすみに【学院がくいん】で講義をしていた魔術師まじゅつし青年せいねん和泉いずみ。彼のところに、元学院長もとがくいんちょうおとこはく 時臣ときおみから、ホゴルという魔術師の調査ちょうさを手伝ってほしいという依頼が来る。

    そこで組むこととなったのが、貴族の魔女まじょメイ・ウォーリックだった。傲岸ごうがん不遜ふそん彼女かのじょ衝突しょうとつしながらも、和泉いずみはホゴルのおさめる領地りょうちにはいる。そして本格的ほんかくてき調査ちょうさをはじめようかというところ、ホゴルの使つか名乗なの女性じょせい協力きょうりょくを申し出られ、渡りにふね甘言かんげんにのってしまう。

    むらはずれの【墓地ぼち】に誘い出されたふたりは、【ゾンビパウダー】という魔法まほうくすりにより、リビングデッドと化した死体たちにおそわれる。苦肉の策として、生けるしかばねたちをしりぞけるべく、ウォーリックがよるを〈あさ〉に変える魔術まじゅつを展開する』


    ※ウォーリックの視点からはじまります。





 ――(ほし)()ぶ――。

 地動説が定着(ていちゃく)して久しい今日(こんにち)において、この言い方はナンセンス極まりない。

 無形(むけい)の存在たる【妖精(ようせい)】が、【魔法(まほう)】という不思議を()す【(うら)】でも、星の自転と公転は存在する。【おもて】と【裏】は、切っても切り(はな)せない因果にあるのだから。

 それでも『(よる)』を『(あさ)』に変える(じゅつ)があり、なおかつ成立するのは、天体を操作するからくりもまた、妖精(ようせい)管轄(かんかつ)ゆえである。

 ウォーリックが、星――太陽(たいよう)の運行について「ずらす」と表現ひょうげん(こだわ)るのも、伝達の差異によって、妖精たち(かれら)への伝導率が変わるためだった。

(それでも。破産(はさん)はまぬがれない)

 魔力(まりょく)を展開しながら、ウォーリックは焦燥(しょうそう)を感じていた。規模(きぼ)おおきな魔法(まほう)であるために使用しよう容易(ようい)ではなく、圧倒あっとう的な練習不足(れんしゅうぶそく)であるのがひとつ。もうひとつの理由(りゆう)は、八時間(はちじかん)――。四八〇(よんひゃくはちじゅっ)(ぷん)の天体のずれによりこりうる『反動(はんどう)』が、どの程度のものか想像がつかないことである。


(まあ。世界が(ほろ)びる。とまではいかないでしょうけど)

 構成がわる。

 ウォーリックを中心(ちゅうしん)に、墓所(ぼしょ)地面じめんに光の紋様(もんよう)捺印(なついん)される。

 【コラール】というこの()きつけ現象(げんしょう)は、魔術師(まじゅつし)の〈トランス〉――自己酩酊(じこめいてい)状態(じょうたい)発生はっせいする、ちからのかる暴走(ぼうそう)である。

 (あつ)く。(たか)く。

 限界を越えた魔力(まりょく)が、術師(じゅつし)の意識をなぞって、地上(ちじょう)魔法陣(まほうじん)を刻むのだ。


   〇


 ウォーリックの足元あしもと(はし)魔術(まじゅつ)構成図(こうせいず)は、基準きじゅんとなる魔法陣(まほうじん)に独自の改造がくわえられたものだった。

 理解が。和泉(いずみ)には到底およばない。

(あいつ大丈夫(だいじょうぶ)なのか?)

 〈古典魔術文字(まじゅつもじ)〉が光の陣には羅列(られつ)されていた。古代の中東(ちゅうとう)に用いられた、現代では用途(ようと)困難(こんなん)文字媒体(もじばいたい)である。

 魔術まじゅつのちからを、術者じゅつしゃ限界以上(げんかいいじょう)にまで引きあげ、強大きょうだい魔力(まりょく)放出(ほうしゅつ)かなえてくれる一方いっぽうで、使用後(しようご)消耗(しょうもう)(はか)り知れない。

 ウォーリックの体力(たいりょく)(あん)じたものの、和泉は彼女かのじょに問うことはできなかった。

 邪魔(じゃま)をすれば、せっかくみあげた魔力まりょく無駄むだになる。いたずらにウォーリックのスタミナを消費(しょうひ)させてわりにするのはいたたまれない。

 飛びかかる骸骨を、蹴りで和泉(いずみ)はらった。こうでは、リリンが鶴嘴つるはしを振るって死者(ししゃ)を駆逐する。

 詠唱(えいしょう)はじまる。


   天上(てんじょう)の 時(たてまつ)る 大神(おおかみ)

   (ほし)()い めぐり

   (ほし)()み (かげ)()

   黄昏たそがれを 常世(とこよ)()ろす――。

月狼(ハティ)陽狼(スコル)の、軌跡(奇蹟)よ!!」

 天と地が鳴動(めいどう)した。

 時の歯車(はぐるま)が、不当な()()()を受けたように。引力(いんりょく)のくびきが(くる)う。

 魔法(まほう)が。天体の加速と、ともなう巨大きょだい影響(えいきょう)への補正(ほせい)を繰り返し、光を空に引きずり出す。

 ――あと四二〇(よんひゃくにじゅっ)ぷん。……三六〇(さんびゃくろくじゅう)。……三〇〇(さんびゃく)分。……。

 暗闇くらやみが濃くなった。

 深夜(しんや)が来る。

 空は更に動く。


   ――のこ一八〇分(ひゃくはちじゅっぷん)


「メイっ。まだあと三時間はあるよ!」

 リリンが叫んだ。光の(サークル)中央(ちゅうおう)でウォーリックがうめく。天体を支えるように、両腕(りょううで)頭上ずじょうに掲げたまま。

 亡者(もうじゃ)(たお)れない。

 (よる)が深まったことにより、一層(いっそう)活発(かっぱつ)になって、凶刃(きょうじん)和泉いずみたちに振りまわす。

「もうすぐだ!」

 和泉は叫んだ。

 東の空に、(あかつき)気配(けはい)

 (よる)から(あさ)へと移る、けの明星(みょうじょう)

 どごおッ!

 ()ける(しかばね)の拳が和泉(いずみ)あたまを打った。

 怪人の膂力(りょりょく)に、くたびれていた身体が地面じめんに叩き伏せられる。

 〈太陽(たいよう)〉は更に動く。

 夜明(よあ)けが来る。


   ――四八〇(よんひゃくはちじゅ)(っぷん)


 軌道上(きどうじょう)をめぐりえた。

 死者(ししゃ)は――。

 まだ(ねむ)らない。

「「メイーッ。あと『三〇分(さんじゅっぷん)(ぶん)ひっぱって!」

 蒼白(そうはく)になって魔術(まじゅつ)はなち続ける魔女(まじょ)に、リリンは(げき)を飛ばす。

 ゆるやかになりかけていた朝日(あさひ)の運動が、再開した。

 ……雲間(くもま)から。陽光(ようこう)があふれだす。

 亡者(もうじゃ)れが、静止する。

 あやつり人形(マリオネット)が糸を切られたように、リビングデッドたちは、ばらばらとおとをたてて地面じめんにくずおれた。

 すうっ……。

 死者の身体が朝日(あさひ)に溶けていく。

 日差しに浄化(じょうか)されたのか。または、呪術(じゅじゅつ)のみちびきによって逃げたのか。

 伏した死体たちは、あとかたもなく消え去った。


 ガクン。

 ウォーリックの両膝りょうひざ()ける。

「ウォーリック!」

 ()うように和泉(いずみ)少女(しょうじょ)の元に駆けった。身体を支える。

(かる)っ……)

 ペタン。と彼女かのじょ地面(じめん)すわりこむ。おおきく息をつき、ふるえる声を出す。

「ね……」

「ね?」

 かすれる声に和泉は(みみ)をそばだてた。

 きっぱり。ウォーリックは宣言する。

()ます」

 かくんっ。

 スイッチが切れたみたいに、ウォーリックは昏睡(こんすい)した。腕にもたれかかる女子生徒(じょしせいと)に、和泉(いずみ)は肩をコケさせる。

律儀(りちぎ)かこいつ。……なにはともあれ」


 和泉いずみ(むね)をなでおろした。

 墓場(はかば)を出ようと、ウォーリックを抱きあげて(きびす)を返す。

 ガツンっ。

 スコップの先が、和泉(いずみ)の白い(あたま)殴打(おうだ)した。悲鳴(ひめい)をあげる()もなく、意識が途切(とぎ)れる。

 払暁(ふつぎょう)

 農具(のうぐ)かまえてふたりのまえに立つ村人(むらびと)たちを、早朝(そうちょう)の日が照らしていた。



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