35.480分
〇前回のあらすじです。
『夜の墓地で、和泉たちが大量のリビングデッドに苦戦する』
リビングデッドたちは性懲りもなく蘇生した。
分解した手や足が、自然と胴体にくっついていく。
うようよと墓をおおう骸の量に、和泉もウォーリックも嫌気がさす。
「このままではラチがあきません」
「ああ……」
ぼやいたウォーリックに続けて「だいじょうぶか」と問おうとして、和泉はのみこんだ。
訊けばそのまま倒れてしまいそうな。鬼気とした青さが彼女の白い肌にはある。
「……教授は、いまから〈朝〉にすることができますか」
「それは『天体』をどうこうできるかってことか?」
ドーム状の魔力壁の向こうで、ウォーリックはうなずいた。しゃべる体力もおしいとばかりに。
まばたきもなく答えを待つ魔女に、和泉は首を横に振った。
「むりだ。オレたちが宿で飯を食いはじめたのが……。七時頃。仮にいまが八時だとして……。八時間分、〈月〉と〈太陽〉を動かすんだぞ」
「『四八〇分』ですわ」
(同じだろーがっ!)
夏場なので日の出は早い。
それでも空が明るくなるのは、朝の四時……。
天気が悪ければ、陽光のめぐみを受けるのはもうすこし後になる。
「それから認識がまちがっています。月と太陽を動かすのではなく。ずらすのです」
「どっちでもいいじゃないか」
言い返したが、ウォーリックはもう相手をしなかった。
――四八〇(よんひゃくはちじゅっ)分。
「魔術を展開します」
表情に青白さを残したまま、ウォーリックは宣言した。
直感的に、和泉は彼女の元に走る。まとわりつこうとする亡者を、ぼろぼろの剣で斬りはらう。
「教授。そのまま一分。わたくしを守っていてください」
自分を包む障壁をウォーリックは消した。
彼女に打ちかかる敵を、和泉は体当たりではじく。
魔術は――使えなかった。
朝や夜を招くのは、強烈な集中を要する【大魔術】。ほかの魔法によるノイズは、できる限り小さいほうがいい。
和泉の死角を腐肉の戦士が素通りした。
ガラあきのウォーリックに、棍棒が踊りかかる。
――が、戦士はころんだ。骨の見える足首に、斑のヘビが巻きついている。
「リリン!」
和泉は快哉を叫んだ。
黄と黒のぶちのへびは、人化の術で十二才ほどの少女に化ける。
仰臥するリビングデッドの上にスニーカーの片足を置き、ごきんっ。と顎の骨を踏み抜く。
「あと五十一秒かぁ」
ひとごとのように吐露して、リリンはぐるりを見まわした。
「朝になったらコイツら、おねんねしてくれるのかな?」
「賭けだろ。そこは……」
確信はなかった。
剣を和泉は構えなおす。
――ウォーリックの膨大な魔力が、星空に干渉をはじめる。




