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鉄と真鍮でできた指環 《2》 ~ネクロマンサーの秘薬~  作者: とり
 第4幕 ネクロマンサーの秘薬(ひやく)
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34.生命線(せいめいせん)


   〇前回ぜんかいのあらすじです。

   『墓地ぼちにつれて来られた和泉いずみたちが、リビングデッドの大群におそわれる』





 ふたりは左右(さゆう)に分かれた。

 いびつな白刃(はくじん)和泉(いずみ)法衣(ほうえ)をかすめる。

 うごめ死者ししゃたちが、ふたつの生者(せいじゃ)に殺到する。

(つわもの)(ほふ)る、(りゅう)雄叫(おたけ)び!」

 ごおおおあっ!

 和泉が()いだ腕から真空の(なみ)巻起(まきお)こる。

 魔力(まりょく)旋風(せんぷう)が、拳や武器を振りかぶるリビングデッド達を吹き飛ばす。

 空圧くうあつ(あらし)に、死者の体躯(たいく)がばらばらとくずれた。

 白骨化(はっこつか)したもの。腐敗(ふはい)したもの。乾いたもの。

 あらゆる体躯の四肢が、風塵(ふうじん)のなかで(うず)をまく。

 ちかり。視界のはしで光がはじけた。


 どおおおおおおおおっ!

 爆発(ばくはつ)こり地鳴(じなり)が轟く。

 爆炎(ばくえん)があがり、(むくろ)のほそい身体が闇夜やみよ()った。

 ウォーリックの魔法(まほう)だ。

(あれっ。あいつ、呪文(じゅもん)……)

 下から跳んだ手のひらが、和泉(いずみ)の思考を止める。

 ガツッ。

 グローブをはめた千切れた手に、首が締めあげられる。

 和泉は呪文をとなえようとして。

「がふっ……!」

 空気だけが漏れる。

(声が出ない……っ!)

 かるいパニックを起こす。

 魔術師(まじゅつし)はふつう、呪文を発声(はっせい)することで自然力(しぜんりょく)を司る超常(ちょうじょう)の存在――【妖精(ようせい)】によびかけ、魔術(まじゅつ)という奇蹟(きせき)()す。

 だから声は術師(じゅつし)にとって生命線(せいめいせん)であり、戦闘時における声の喪失は敗北(はいぼく)意味いみした。


 ()れた別の手が地面(じめん)をまさぐる。

 近くにころがっていた鶴嘴つるはし()を握る。

 くちばし(じょう)鉄塊(てっかい)が、いきおいをつけて和泉いずみ眉間(みけん)跳躍(ちょうやく)する。

(死ぬっ……)

 ――ぱんッ。

 腐った手を灼熱(しゃくねつ)光芒(こうぼう)が撃ち()とした。

 支えを(うしな)った鶴嘴つるはしが、和泉の鼻先(はなさき)で停止する。

 引力(いんりょく)にひかれて――大地へ。

 鉄の切っ先が、土の上で一度(いちど)だけバウンドする。

教授きょうじゅ。これを」

 (むら)がる死体の合間(あいま)から、ウォーリックの声が飛んだ。

 同時(どうじ)に。一振(ひとふ)りの剣も。

 和泉(いずみ)彼女かのじょ()げてよこした武器を、みぎの手でキャッチした。

 背筋(せすじ)がゾワッとふるえる。

 握ったグリップに血や肉片が付着(ふちゃく)している。リビングデッドの持っていたものだろう。

「おまえ――」

 ってきた亡者(もうじゃ)たちを()こぼれだらけの刀身で叩き伏せながら、和泉は叫んだ。

「使えるのかっ。ひばりの技法(ぎほう)を!」

 (いら)えはない。


 ゾンビパウダーで不滅(ふめつ)生命(いのち)あたえられた死者ししゃたちは、いても砕いても再生した。

 時に分離した部位を飛ばして、ゾンビはふたりの魔術師まじゅつし圧倒(あっとう)する。

 火柱(ひばしら)があがった。

 呪文(じゅもん)なしで顕現(けんげん)した業火が、黒髪くろかみ魔女(まじょ)まもるように、らせんを描いて天へのぼる。

 腐肉のけるにおい。

「使えます」

 彼女かのじょの声にぼうぜんとしそうになって、和泉(いずみ)は我に返る。

 (なぐ)りかかってきた村人むらびと装束(しょうぞく)のアンデッドを蹴り飛ばす。

 ひばりの技法(ぎほう)

 それは発声はっせいをともなわずして魔術(まじゅつ)をはなつ、魔術師まじゅつし最高峰(さいこうほう)奥義(おうぎ)だ。

 【(うら)】の世界で随一(ずいいち)魔術まじゅつ学校である【学院(がくいん)】でも、使える魔術師は数えるほど。

 教員きょういんを含む研究者(けんきゅうしゃ)クラスか、たまに大学部の生徒でも習得者(しゅうとくしゃ)は出るものの、いずれの場合ばあいもよほど才覚にめぐまれた逸材(いつざい)に限られる。

 高等部の生徒での無詠唱者(むえいしょうしゃ)は、和泉はまだ()いたことがなかった。


 また、くやしいはなしだが。和泉(いずみ)は『教授きょうじゅ』であり、魔術師まじゅつしとしての技量(ぎりょう)も申し分なかったが、ひばりの技法ぎほうはまだ使えない。

 空から降ってくる()のこり――ただれた手や頭部が、ウォーリックに組みつこうとあぎとをひらく。

 すこし自分をなさけなくおもいつつ、和泉は防壁(ぼうへき)呪文じゅもん(とな)えようとした。

 が。先に彼女かのじょ魔法(まほう)障壁(しょうへき)を展開する。

 ばちいッ!

 スパークが夜気(やき)を焦がす。

 半球形(はんきゅうけい)魔力壁(まりょくへき)が、降り注ぐ腕や頭部、腐りてた胴体をはじく。

 発声(はっせい)は、やはりい。

 小さくウォーリックが息をついた。

 顔色(かおいろ)わるい。



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