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鉄と真鍮でできた指環 《2》 ~ネクロマンサーの秘薬~  作者: とり
 第4幕 ネクロマンサーの秘薬(ひやく)
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33.おもてなし



   〇前回のあらすじです。

   『ホゴルの使つか名乗なのおんなに、和泉いずみたちが宮殿きゅうでんへつれていってもらうことにする』





   〇


 宿(やど)を出て、(つち)(みち)を三人はあるいた。

 路傍(ろぼう)にひっそりと雑草のあったていどだったのが、徐々(じょじょ)にぼうぼうとした風情に変わる。

 ぴたっ。

 ウォーリックは立ち止まった。

 まだむらのなかだが、みちはなくなって、草原地帯に移行している。

 満月まんげつが、えざえと夜空(よぞら)に浮かんでいる。

和泉教授いずみきょうじゅ

 ばれて。和泉(いずみ)は先を行く(おんな)見失みうしなわないようにしつつ、生徒を確かめた。

「どうした。具合(ぐあい)でもわるいのか?」

 ウォーリックは(むね)のまえに両腕りょううでを組む。

 首からさげた使(つか)()のヘビをすこ邪魔じゃまそうにしつつ。片脚かたあし体重(たいじゅう)をかけて、泰然(たいぜん)と。


「おなかが減ってちからが出ません」

「だったらせめてそれらしいかおをして言ってくれ……」

 和泉(いずみ)は「だはー」と肩を()とした。膝に両手(りょうて)をつき、無駄むだり詰めた気持ちをゆるめる。

「しょうがないでしょう。このむらったら、食事(しょくじ)(りょう)すくないんですもの。おなかだってきますわ」

「言うなよ。オレだって我慢がまんしてんだからさあ……」

 案内人(あんないにん)のマーゴットを気にして、和泉は生徒にわたわた手を振った。

 ホゴルの使(つか)()である女性じょせい――マーゴットは、ふたりからはなれたところでっている。

 ウォーリックは嘆息して、止めていた(あゆ)みを再開した。和泉のそばまで行き、声をひそめる。

「にしても。(みょう)ではありませんか?」

「なにが?」

 ゆっくりと、和泉も()をすすめた。

 マーゴットも。水先(みずさき)案内人あんないにんとして先へ()かう。


「……。宮殿(きゅうでん)は、こちら側ではありません」

「地元の人しか知らない近道(ちかみち)かなにかじゃないのか?」

「よくもまあ。敵地にあってそんな好意的な解釈(かいしゃく)ができますわね」

 自分の眉間(みけん)を、ウォーリックはゆび()さえた。

心配しんぱいなさらなくとも、もうすぐです」

 遠巻(とおま)きにふたりを見ながら、マーゴットがくちをはさむ。

 和泉は表情(ひょうじょう)をゆがめた。

 使つかおんなは、木の柵のまえにいた。腰ほどまでの高さのフェンスをけて、手招(てまね)きをしている。

 【フーガン墓地(ぼち)】。と()(ぐち)はしらには刻まれていた。


 石の()れ。

 (ぎゃく)U字(ユーじ)の形に切られた墓石(ぼせき)が、黒い草原(くさはら)に、等間隔にならんでいる。

 月光のために浮かぶ刻印は、死者(ししゃ)()生没年(せいぼつねん)ったものだった。

 【(おもて)】で聖なる(しるし)とされる十字架(じゅうじか)は、【(こちら)】では使われていない。教会(きょうかい)もない。

 無機質(むきしつ)で飾り気のない石のシルエットだけが、広大な敷地にあふれていた。

 その中心ちゅうしんまでふたりをつれて、(おんな)――マーゴットが止まる。


みちでもまちがえましたか」

 あたりをまわしつつウォーリックは皮肉った。

 和泉(いずみ)もさすがにをこわばらせる。

「いいえ」

 とマーゴットは答える。

「こちらであなたたちを手厚(てあつ)くもてなすようにと。主人しゅじんの意向です」

 服のポケットにおんなは手を入れた。

 星明(ほしあ)かりが。取り出したものの表面(ひょうめん)をなぞる。

 小瓶(こびん)

 なかに白い(こな)(はい)った――。

 だらだらあせを掻きつつ、和泉(いずみ)はあとずさりした。

「お。おもてなしって……。オレたちは、そんな大層な身分(みぶん)じゃないんだけどなあー」

 瓶の蓋をマーゴットは()けた。よこに振るう。

 夜風(よかぜ)粉末(ふんまつ)がさらわれて、周辺しゅうへんに拡散する。墓地(ぼち)に降り注ぐ。

 地面じめんがきらめく粒子(りゅうし)(たまわ)る。


 ぼこり。

 土の下から、乾いた腕が突きだした。

「ゾンビパウダー……」

 ウォーリックは独白(どくはく)した。

 黒い双眸そうぼうで、マーゴットを睨みつける。

「そんなものを、わたくしたちのまえで使ってよいのでしょうか」

「ええ」

 マーゴットは微笑(ほほえ)んだ。

「だって。死人(しにん)にくちなしなのでしょう? おじょうさん」

 椋鳥むくどりのすがたにもどり、ホゴルの使つか夜空(よぞら)へと()ばたいた。

 暗がりにまぎれていく彼女かのじょのはるか下方かほうで、死者(ししゃ)は大地から生まれるようにして(よみがえ)る。

 鎧兜(よろいかぶと)をまとった痩躯(そうく)平民へいみん服の(むくろ)もある。

「あいつ。初犯(しょはん)じゃないよな」

 すでに武具をまとった亡者(もうじゃ)と、武装(ぶそう)のない死者。後者(こうしゃ)はおそらく、最近埋葬(まいそう)された亡骸(なきがら)だろう。


「いったん退()くか?」

 空間転移の呪文(じゅもん)となえようと、和泉(いずみ)あたま魔法陣(まほうじん)を想起した。

 ――が。

教授(きょうじゅ)足元あしもとを」

 ウォーリックが指摘する。

 和泉は地面(じめん)た。

「……【指定紋(ポイント)】……」

 指定紋。

 〈ワープ〉を使った術者(じゅつしゃ)同士が、おな地点(ちてん)着地点(ちゃくちてん)をおいた際に、互いに相手あいて破壊(はかい)してしまう。そうした事態がこらないように設置される安全装置(あんぜんそうち)

 術者同士の接触事故(せっしょくじこ)を避けられる一方(いっぽう)で、『転移座標(ざひょう)』がぬりかえられ、魔法陣内まほうじんない強制的(きょうせいてき)にワープさせられるというデメリットもある。


「でも確か。【学院(がくいん)】には術者じゅつしゃ選択(せんたく)して飛べる指定紋(ポイント)もあったような……」

(ため)してみますか?」

 亡者もうじゃのせまる魔法円(サークル)を、ウォーリックは(ゆび)差した。

 和泉(いずみ)は首を振って拒否(きょひ)する。

強制(きょうせい)転移》だったらひとたまりもないぞ……)

 包囲(ほうい)はせばまっていた。

 ぼこぼこの全身鎧(フルプレート)をまとった生ける死者(リビングデッド)が、さび(つるぎ)を、ふたりの魔術師まじゅつし()りかぶる。



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