32.ばくち
〇前回のあらすじです。
『宿屋で夕食をとっていた和泉たちのもとに、ひとりの女がやって来る』
和泉たちのまえにあらわれた女は、自身を手でしめして身分を明かした。
「ホゴルの使い魔をしております。マーゴットと申します。主人より、あなたがたの仕事について、協力をするよう仰せつかりました」
和泉とウォーリックは顔を見合わせた。
ウォーリックが切り返す。
「ではマーゴット。単刀直入に聞きますが」
「はい」
「ゾンビパウダーの使用について、あなたなにか心当たりは?」
女――マーゴットは眉ひとつ動かさない。
「さあ」
と惚けた声だけを、白い喉から出す。
和泉がウォーリックの質問を継ぐ。
「動く死体を見たって証言があるんだ。それに、オレたちもそれっぽい、兵士みたいな恰好のやつを見かけたんだけど」
「ここではなんですので」
マーゴットが周囲に注意を向けた。
三人のほうをチラチラ見ていた村人たちが、そそくさと食事や博打にもどる。
店のなかに、わざとらしい談笑が満ちる。
「【動く死体】については、我々のほうにも報せは来ています。よければ現場までご案内しますが」
「自分たちで行けますわ」
観光マップをウォーリックは突きつけた。が。和泉が思いついた風にくちをはさむ。
「できれば宮殿のなかに行きたいな。そこを調べてなにもなきゃ、それまでなんだろうし」
「かしこまりました」
マーゴットはうけたまわった。
すぐ。と彼女は店を出ていく。
椅子から立って、和泉は黒い法衣を羽織った。フローリングを移動すると、脇腹をウォーリックに小突かれる。
「なぜ追い返さなかったのです」
「せっかく向こうから来たわけだし……。あとで自分たちで行くより、負担が少ないかなって」
「負担?」
「……精神的な。だって、知らない人の家に行くんだぜ。その。仕事っていってもハードル高いなあ~。てっ」
和泉の白い頭をウォーリックが叩いた。
ぺんっ。
と、良い音がする。




